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ヤンキーとセレブと日本の歴史    Vol.0 はじめに

ヤンキーとは現代特有のものなのでしょうか。
歴史を遡ると日本にはヤンキー的な文化を多く見つけることができます

世界遺産金閣寺

たとえば、世界遺産にもなっている金閣寺。
金色で一つの建物の中に禅宗と武家と貴族の建築様式を全部混ぜたスタイル。
見た目はゴージャスで、かっこいいもの全部足したらもっとかっこよくなると考える、極めてヤンキー的な発想でできたヤンキー建築です。
この金閣寺を建立したのは、室町幕府3代将軍、足利義満。
地方の守護の反乱を抑え、南北朝に割れていた抗争を終わらせたバリバリの武闘派ヤンキーです。

金色に輝く族車

ヤンキーとは現代特有の文化ではないのかもしれません。
もしかすると「ヤンキー」とは日本史全体の中で流れる「ヤンキー的なもの」が現代に即した形で具象化されている現象ではないのではないでしょうか。
ヤンキーマインドは、日本人の気質として古代から流れているもので、時代によってどのように表現されるのかは変わります。巨大な古墳の時代もあれば、戦国時代には派手な兜となり、現代では族車に表出されます。

その対極にあるのが、セレブ・貴族の文化です。
現代でも高貴さ、教養、倫理観の高さをアピールする人たちをSNSの中でよく見かけると思いますが、これも形を変えながら古代から続く風習です。

日本の歴史は、ヤンキー的なものとセレブ的なものの2つの関係で進んでいきます。
歴史はできごとや年号だけを見るととても覚えにくいですし、現代人とは関係のないようなものにも見えます。
しかし、人間の本質はたかだか二千年程度で変化することはありません。

ヤンキー、セレブという2つの違う勢力が、どのように考えているかを知ることで、この国の歴史は「なぜ」その出来事が起きたのか分かりやすくなりますし、パターンも見えるようになってきます。

私はこの稿で、ヤンキーというものが私達日本人にとってもっと根源的な気質の現れであることを示すとともに、ついでに日本の歴史を分かりやすく理解する一つの方法を提示したいと思っています。


ヤンキーとセレブという登場人物

歴史の中で、為政者がどんな人なのか、何を重要視して政治を行うのかということに着目をすると、出来事の因果見解が明確になり理解しやすくなります。
ただ制度の名前と概要だけを暗記するのはつらいですが、どんな人がどんな動機で行っているかが分かるとストーリーとして分かりやすくなります。

ざっくりと言うと、日本の政権を担っていた人は「ヤンキー」と「セレブ」のどちらかに分類できます
朝廷や幕府など最初に開いた人たちは、当然武力で権力を握るので、「ヤンキー」の傾向が強くなります。政権が安定してくると段々とマイルドになり武力を忌避し「セレブ」の傾向が強くなってきます。
現代でもそうであるように、ヤンキーとセレブでは考え方や優先順位がまったく異なりますので、政治運営の仕方も大きく異なります

ヤンキーとセレブの特徴

まずは、ヤンキーとセレブとはどんな人達かから見ていきましょう。

■ヤンキー■
武力で新政権を樹立した人たち。バックグラウンドに暴力を持つ

【文化】
派手さを好む。かっこいいものは全部混ぜたら良いという発想。大きいものはより大きい方がよく、長いものはより長いほうがかっこいいと思う足し算の文化。見せびらかすことを躊躇しない。
例:古墳、北山文化(金閣寺)、安土桃山城、戦国武将の兜など
※江戸時代の文化は主体が庶民に移ったので、この分類に入らないものが多いと思いますが、徳川家光が作った家康を祀る日光東照宮とかは族車の様なカラーリングをしている。

【統治方法】
盃関係または疑似ファミリーが統治の根幹
現代ではその形を最も色濃く残すのがヤクザ。一次団体から盃をもらうことで、二次団体以降は団体としてその一門に所属し、一次団体の代紋を掲げて活動する。一門に所属すると、元々は見ず知らずの他人でも信用する
そのため、統治方法は、一門に加わった地元の有力者に任せることを好む
家父長制を模した疑似ファミリーなため、上のものが絶対で、上意下達の構造なので、長く続くと制度は硬直化しがち。

わかりやすい例では、大和朝廷、足利義満、戦国武将、徳川家光(室町幕府も江戸幕府も初代はまだ抗争中だから派手さに投資する余裕はない)。自分の権威を高めて地方の豪族や有力守護・藩主などと主従関係を結び、間接統治をします。
現代でもヤクザが盃関係を結んだりするだけではなく、つんくファミリー、紳助ファミリー、EXILE TRIBE FAMILYとか芸能でも疑似家族を作るのと似ている。

現代のビジネスでは、フランチャイズ型の店舗経営などが似ている。FC加盟店のオーナーは、地元の有力企業や資本を持っている人のことが多い。その土地の市場の理解、人脈などを持っている人に地元での商売を任せて、本部はファーマットを提供し、上がりを徴収する。

■セレブ■
貴族やエリートなど。日本には科挙がなく、ずっと身分制だったので、生まれの良さでポジションをとった人たち。ヤンキー政権も抗争が終わって3代位経つと暴力を嫌がりセレブ文化に傾倒する。
(現代の学歴のよさも努力以前の問題として、そもそも親が教育に理解がありお金をかけられる家に生まれたかどうかの方が影響大きいので)

【文化】
欲望をそのまま剥き出しにはせず、品のよさや倫理観の高さを主張する。
芸術家、職人などの洗練されたものを好む。仏教など倫理観の高さをアピールできるものをファッションとして嗜む。元々持っている側だが、それをそのままひけらかすと下品だから引き算して自分たちが見せたいものだけ表現する文化
例:平安文化、東山文化(銀閣寺)

【統治方法】
自分たちと同じ貴族仲間しか信じていない中央から貴族の仲間を派遣して統治させる。そのうち地方と中央のギャップが大きくなると同時に、中央は文化の方に興味が移って政治がおろそかになってヤンキーの台頭を許すパターンがしばしば。暴力は下品なのでアウトソーシングしたがる
分かり易い例としては平安貴族。自分の高貴さを誇るために家柄を語り、教養の証として、和歌や漢詩を作り、倫理観を示すために仏教を信奉する。
現代でも、高貴さを誇るために学歴を語り、教養の証としてSNSにビジネス自慢のポエムを書き、倫理観を示すためSDGsやダイバーシティや地方創生を信奉する人たちがいるのが同様

また、自分たちは社会の中心だと思い、ミクロな事象には興味が薄い。しかし、実際には自分たちが関心があることが仲間内だけで通じるミクロなものであることに気づかず、自分たちはマクロな普遍的な社会全体に関わっていると考えることもしばしば。

現代のビジネスでは、本社から地方に支社長とか派遣するタイプの企業。本社で一括採用した学歴のよい同質性の高い人材の中から選抜し、地方の支店・支社に送り込み現地採用の人たちを使って仕事をする。

それぞれにそれなりに理由がある

ヤンキー文化は、暴力うずまく社会情勢の中で統治のために広く自分の権威を高めなければならないので、万人にわかりやすい派手さを基調とすることに合理性があります。いかつさやオラつき感も、猛獣のたてがみや牙の大きさのように、人を服従させるために本能的に作用させるものとして有効です。

それに対して、セレブ文化は、既に持っている側なので、持ってる側の仲間内でよいポジションを取って、それを維持することが重要です。
自分たちが選ばれた特別な存在だということを確認
するために、大衆にとってわかりやすく区別できる高貴さと、仲間内での評価を高める(ファッションとしての)芸術・教養・倫理観に重きを置きます

日本の歴史を理解するためのポイント

歴史の教科書に出てくる出来事は、文化史を除けばほとんどが為政者の行いです。
その行いを理解するのに、ヤンキーとセレブの価値観の違いを理解すると、因果関係がとてもわかり易くなります。

もう一度改めて整理すると両者のポイントは下記のようになります。

【ヤンキー】
暴力うずまく社会情勢の中で統治のために広く自分の権威を高めることが重要と考える。
そのため、わかりやすい派手さ中心の文化になる。
また、取り込んだ勢力の不満を押し込め、統治の力に転換することが求められる。そのために一門・ファミリーの支配関係を重視する。各地域の統治者は地元のミクロな現象に関心を持つ。

【セレブ】
比較的安定している時代にしか表舞台には出現しない。
貴族社会・学歴社会などの数十年以上の蓄積が必要な勢力基盤が浸透し、同質性の高い人材集団が形成できるような時代にならなければ生まれない。
そのため、自分たちの高貴さ・特別さを保った上で、集団内での評価の高さに執着する

もう一点重要な要素、「土地」

近代以前の権力の源泉は、ほぼ人と食料です。そこから武力や政治力が生まれます。
どれだけ多くの言うことを聞く人と食料を確保できるかで、勢力の強さが決まります。その両方が手に入るのが「土地」。すなわち、縄張り・シマを多く持つものが強くなるということになります。
この国では、中央政府が土地の所有をしている時代、各個人が所有をしている時代と、土地所有の制度は度々変化します。そして、そのたびに勢力のバランスが変わります

例えば、中世の歴史で度々出てくる「荘園」という言葉。
とても分かりにくく、イメージしにくいのですが、ヤクザのいう「シマ」だと思ってください。シマの中の人に影響力を行使できて、そこからの上がりをとることができれば、組はどんどん強くなっていきます。だからシマを広げたいし、シマをめぐり他の組と争いが生まれる。
この荘園というシマを多く持つ者の力が強くなるたびに、中央の政府は荘園領主から介入を受け、自分たちの思い通りの政治ができなくなっていきます。
土地を支配し、人と食料を手に入れることは、権力に繋がります。だから、為政者の裏にはどこにシマがあったのか、なぜ土地を巡る法律が多くでてくるのかということを理解すると歴史の流れが分かりやすくなります
土地が誰のものになるのか制度が変わると、その数十年後に、為政者に大きな影響が必ず発生しています。

日本の歴史をヤンキーとセレブの視点から見直す

このようにヤンキーとセレブの行動原理と、その権力の源泉である「土地」という概念を念頭に見ると、日本の歴史はとてもシンプルに捉え直すことができます

個人的には、リアリティを持って日本史を理解するには、龍が如く」か「新宿スワン」か「日本統一」をあわせて嗜むのがよいと思っています。

桐生ちゃんと真島の兄さん(龍が如くより)

次回以降は、古代から順を追って、ヤンキーとセレブの考え方にもとづいて歴史を見ていきたいと思います。

それを通じて、ヤンキーという存在が、日本の中でとても普遍的な存在であることを再認識していければと思います。

Vol.1 縄文・弥生・古墳時代


諸々、本文と直接関係ないこと

この稿は歴史が専門ではなく、ヤンキー好きで行政学を少し学んだだけの著者が書いております。
そのため、間違いなども多々あると思いますが、その際はお手数ですがご指摘・ご指導をいただければ幸いです。
 

わかりやすさのための「ヤンキー」の定義

現代の日本のヤンキーの海外の不良との最も大きな違いは「アマチュア性」です。
多くの国では不良は暴力を経済活動に用います。カツアゲ、強盗、薬物の販売、売春の元締めなど暴力を背景にして経済活動をします。しかし、日本のヤンキー、暴走族などは悪いことで生計を立てていません。生計の手段としてではなく、アマチュアとして悪さをするのが他国にはない日本のヤンキーの大きな特徴です。
我が国では、暴力を用いて違法な経済活動をしている集団は暴力団・半グレといって別のカテゴリーとして警察に監視されています。
歴史を遡ると、アマチュアとして暴力を使う集団は少なく、ここで「ヤンキー」と書くものも実態としてはほとんど暴力団に近い部分もあります。しかし、読み物として書くには「暴力団」はおどろおどろしい表現であるとともに、「ヤンキー」の本質は暴力行為ではなく精神性に宿るため、本稿ではマイルドに「ヤンキー」と書きますが、現代のヤンキーとここで出てくる歴史上のヤンキーは違うものとご理解いただければ幸いです。

ヤンキー文化と違法性に関する考え方

私はヤンキーという文化は尊重したいと思っていますが、現実の違法行為・暴力行為を礼賛・推奨するつもりはありません。例えば、侍を肯定的に描く作品でも、侍の文化や精神性は肯定しても、人斬りなどの行為を現代で行うことを肯定しないものがほとんどです。侍好きでも銃刀法に違反しない模造刀でコスプレする程度で、真剣を持ったり、ましてや人斬りをしなければ本当の侍になれないなどと言う人は普通はいません。
存在の特性や精神性と違法行為は切り離して評価ができるものであり、願わくばヤンキー・暴走族も暴力性・違法性はフィクションの作品の中だけのものとして、独特の習慣や美的感覚を持った文化としてコンプラ化していくことを願っています。
族車・特攻服・ファッション・ポエムなどヤンキー文化にはとても素晴らしい表現が多くあります。これらの文化は現実の暴力や違法行為を肯定せずとも楽しめるものです。ダイバーシティが大事にされる時代ですから、ヤンキー的な考え方も(人に迷惑をかけない限りにおいて)尊重されることを願っています。

謝辞

本稿の作成には、専修大学経営学部准教授三宅秀道先生のラグジュアリー論、経営学観点からの文化人類学から、歴史を見る視点の転換となる気付きと大きなヒントをいただいております。
また、ヤンキー文化専門誌の編集長として、我が国の暴走族・ヤンキーの文化を長年に渡り取材・発信されてきた秋元敏行さんから、暴走族・ヤンキーの文化・歴史などをご教示いただいたことが、それぞれの時代のヤンキー的な存在の理解に大きな助けになっております。
多大なご指導・ご鞭撻を賜ったお二人の先生に深謝申し上げます。

参考文献

書いているうちに増えてきますが、ここにまとめておきます。

  • KADOKAWA (2015) 日本の歴史 - 角川まんが学習シリーズ

  • 山川出版社(2017) 新もういちど読む山川日本史

  • 與那覇潤(2014) 中国化する日本 増補版 日中「文明の衝突」一千年史 文春文庫

  • 東島誠 與那覇潤 日本の起源(2013)太田出版

  • 池田信夫 與那覇潤 「日本史」の終わり(2015)PHP研究所

  • Lynn Hunt(2019) なぜ歴史を学ぶのか 岩波書店

  • 清水 克行 (2021) 室町は今日もハードボイルド: 日本中世のアナーキーな世界 新潮社

  • 桃崎 有一郎(2018)武士の起源を解きあかす――混血する古代、創発される中世 ちくま新書

  • 竹村 公太郎(2021) 地形と気象で解く! 日本の都市 誕生の謎 歴史地形学への招待  ビジネス社

  • フランシス・フクヤマ(2013) 政治の起源 講談社

  • 松井優征(2021-) 逃げ上手の若君 集英社

  • 東京大学 入学試験 日本史 

  • 衆議院 衆憲資第 27 号 明治憲法と日本国憲法に関する基礎的資料 (明治憲法の制定過程について) 最高法規としての憲法のあり方に関する調査小委員会 (平成 15 年 5 月 8 日の参考資料)

  • 瀧井一博 増補文明史の中の明治憲法(2023) 筑摩書房

  • 入江昭 日本の外交: 明治維新から現代まで(1966)中央公論新社

  • 福田邦夫 貿易の世界史 ――大航海時代から「一帯一路」まで(2020)筑摩書房

  • 佐伯真一 戦場の精神史 ~武士道という幻影(2004)NHK出版

  • 武士道の精神史


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