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『竜とそばかすの姫』ディレクター考察①〜なぜ恵の父は鈴を殴れなかったのか〜しがないテレビマンが勝手に語る【※ネタバレ注意】
ついに、観てきました!
夏といえば、細田守監督作品。
高校生の時にアニメ『時をかける少女』を見てから、ドハマリ。夏の風物詩となりつつある、細田守監督のアニメ。
最新作の『竜とそばかすの姫』観てきました。
あらすじを簡単にお伝えすると、、
高知県の片田舎で暮らすパッとしない女子高生・鈴(すず)が、[歌]の力を使い、全世界に50億のユーザーを有する仮想現実空間「U(ユー)」で大活躍するひと夏の成長記録、とでもいいますか。
全体の感想として、個人的には非常に面白かったです!
細田守監督の作品あるあるである、小さな個人や町のトラブルかと思ったら、世界の人々を巻き込む壮大な問題になっていく、という展開は健在で、ストーリーにグイグイ引き込まれました。
これまでの作品にも出てくる共通のモチーフなども数多く見受けられ、何を象徴しているのか、考察しがいがあるなぁ、とワクワクしてしまった自分がいました。(こちらはまた別記事で書きます)
また、昨今のSNS、ネットでの匿名ユーザーによる誹謗中傷問題にも柔らかにアンチテーゼを唱える姿勢が見られ、しがない1テレビマンとして見ても、興味深い内容でした。
さて、ここまで軽い導入として、ここからは本題に入り、ネタバレしまくっていきますので、まだ観ていない方やネタバレが本気で嫌な方は、この先絶対に読まないでください!
※他のネット上の考察などは一切読んでいないので、ドラマ好きだった怠惰なアラサーテレビマンの独り言のような考察になります。ビールのお供程度に楽しんでもらえれば嬉しいです。
さぁ本題です。
なぜ恵の父は、鈴を殴らなかったのか?
※もう観た方しかいないと思って書きます。
Uの世界で極悪人扱いされている竜(りゅう)のオリジナル(本体)である、恵(けい)※cv佐藤健。
ベルの仮面を脱ぎ捨て、U上に素顔を晒してライブをした鈴(すず)は、恵に対してベルのオリジナルは自分であることを証明しました。
再度ビデオ通話が繋がり、恵はDV気質のある父親から、弟・トモもろとも助けてもらうために鈴たちに住所を伝えようとすると、父親が部屋に入ってきて、通話を強制シャットダウンしてしまいました。
鈴たち高校生、地域合唱団のおばちゃんたちの叡智を結集して、奇跡的に住所を突き止め(凄すぎw)、鈴は高知からはるばる東京へ向かいます!
鈴はローカル線で高知駅へ、そして夜行バスに乗り東京へ。
※1.この夜の間、恵たちはどうやって過ごしたのか、別記事にてドラマ的な考え方で考察します。
※2.夜行バスの中での、鈴の父(cv役所広司)のセリフで泣きました。なぜ泣けるのか、演出方法を別記事で書きます。
雨が激しく降る東京の朝。多摩川駅に降り立つ鈴。
武蔵小杉の高層マンションが見える登り坂の多い高級住宅街をすぶ濡れになりながら走っていると、弟・トモの姿が見えます。
あれ?恵は?
とドキッとさせられるや否や、ちゃんと恵もタイミングよく出てきます。お互いに抱き合う3人。
鈴はこれで二人を助けられたかと思いきや、「許可なく外に出るな」的なクズ台詞を吐きながら父親登場!
父親に背を向けて、恵とトモを抱きしめ抵抗する鈴。濡れた髪を掴まれたり、爪で頬をひっかかれて血を流したり(痛そう…)しながらも断固として二人を離しません。
父親にヤンヤン暴言を吐かれた挙げ句、鈴は父親に立ち向かい、鋭い眼差しで睨みつけます。
拳を上げ殴り掛かりそうになりながら大声を出す父親に対して鈴は、ガンジーも黙るレベルの「非暴力・不服従」の姿勢を徹底します。
『ヒィ、ヒッ』とアホみたいに弱い声を出して尻餅をつく父親。
結局恵の父親は、鈴に根負けし殴ることができず、家にナヨナヨと帰っていきます。
映像が蘇りましたでしょうか?
ここで本日の問いに戻ります。
なぜ恵の父は、鈴を殴らなかったのか?
ポイントは2つ。
①母親の幻影
②弱い者いじめをする者の弱さ
です。
これを考察するには、鈴の心情と恵の父親の心情の2つを読み解く必要があります。
■睨みつける鈴の心情
鈴は母親譲りの優しさを生まれ持った存在です。これはU上でのライブで歌うシーンでフラッシュバックした母親の映像や、夜行バス内での鈴の父親からのメッセージ(「母さんと同じ優しさを持っている」的な)からも明らかです。
見知らぬ他人であっても、弱い立場の者を助けなければ、という正義心に満ち溢れた主人公が鈴であり、その気質は、母親の死因(川で遭難した子供を助けて犠牲になる)からも読み取れます。
そしてこのシーンでは、いつまでも背中を向けているのではなく、眼光鋭く恵の父親を睨みつけます。
これまで自分の歌声を封じ込め、現実世界では日陰者として人に助けられて生きてきた鈴が、Uでの経験により正義感を呼び醒まし、真っ向から立ち向かう勇気を持った瞬間でした。
その強さは、人としての強さだけでなく、まだ高校生ながら“弱き者を守る”母としての強さまで持っていたと考えられます。
■殴れず尻餅をついた恵の父親の心情
一方の恵の父親は、妻を亡くして子供二人を男手ひとつで育てており、良い土地に一軒家を買えるくらい金持ちであるがDV気質。
妻を亡くした原因は初見では読み取れませんでしたが、U上の竜の城の部屋には額縁に入った母の肖像画らしきもののガラスが割られている描写があったことから、恵にとって母は非常に大切な存在であり、自分を愛してくれた存在であったと類推できます。
これはあくまで推測ですが、恵の父親は妻をDVの末に亡き者のしてしまった可能性もありますし、不慮の事故や病気で最愛の妻を亡くした腹いせに息子たちに暴力をふるっている可能性もあります。
僕は今回の考察にあたっては、妻が生きているときも父親のDVが常態化していたと考えます。
おそらく恵の父親は、自分の妻へ暴力もふるっていて、泣いたり喚いたりする子どもたちへも手を上げていたのでしょう。
そのとき妻(恵の母)は、「この子たちを殴るくらいなら私を殴りなさい」と強く抗議していたはずです。そうでなければ、恵が母親の死に対して悲しみに暮れるはずもないからです。弟トモを守ろうという意識も母親の背中から学んだものでしょう。
その眼差しを覚えていた恵の父親が、今回真っ向勝負をしてきた鈴に対してどう思ったのか。
そうです。
鈴の眼差しに「母親としての強さ」を感じ、亡き妻の姿と重なったのです。
要は妻(母)の幻影を見ていたのです。
夫として妻の死は受け入れ難いもの。だからこそ、鈴を殴ること=妻を殴ることと錯覚してしまい、死人に鞭打つようなことをどうしてもできず、威嚇するための大きな声だけ情けなく出して、最終的には拳を下ろすどころか、怯えるように去っていったのです。
弱い者いじめをして強い気になっていた父親は、誰かを守ることを覚悟した本当の強さを持つ鈴に負けたのです。
※鈴の睨みと父親の叫ぶ顔、震える拳のしつこいくらいのカットバック(3,4回した?)は見どころでした。
以上のことから、恵の父親は鈴を殴れなかったのだと僕は考えます。
※何度も言いますがあくまで個人の見解です。異論はもちろん認めますので、コメント欄へ!!
▼弱き者を守る強き者 vs. 弱き者をいじめるエセ強き者
このシーンから映画全体を見渡すと、テーマ性みたいなものも見えてくると思いました。
仮想現実Uの中に出てきた、正義を振りかざすジャスティンは、まさに恵の父親と同義です。
正義という大義名分にかこつけて、結局やっていることは多様性の排除であり、弱い者いじめです。個性のない大人数で、竜という一個人をつぶそうとしています。
ジャスティンだけでなく、U上に数多く存在したアンチ系のユーザー全員が、加害者です。
一方で、素晴らしいものは素晴らしい、応援したいという気持ちの現れが、鈴のAZ・ベルに寄せられたあたたかい言葉であり、皆で歌った際のオレンジ色に輝く胸の光の玉だったのでしょう。
そういった思いやりの気持ちを持っていることが、強き者である確固たる証明になると、細田守監督は伝えたかったのではないでしょうか。
これが、冒頭にお伝えした誹謗中傷問題への言及という点です。
まとめ
いかがだったでしょうか?
個人的には『竜とそばかすの姫』、細田監督の思いが強く強く浮き出た素晴らしい作品だったと思います。
監督が東映アニメーション時代に苦労していた時に、アニメ業界で生きていく糧にした『美女と野獣』。それを自分なりに表現したいと望んだ今作は、一際力が入っていたように思いました。
まだまだいろいろネタバレ満載で考察したいトピック、演出論がありますので、是非暇つぶしに読んでください〜!
面白かったと思ってくださった方は、スキ!とフォローお願い致します!♪~(´ε` )
追記
ここまで熱く語っておきながら、僕は『サマーウォーズ』が一番好きです(笑)
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