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インガ

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世界規模の感染症パンデミックにより、国家という枠組みが瓦解して企業自治体が乱立した世界。 感情を表層化するIMGシステムにより管理された社会で、謎の人型ロボット「インガ」に命を狙…
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2022年8月の記事一覧

インガ [scene003_06]

右手で拳銃を構えながら、左手をドアノブにかけるハナヤシキさん。 こちらを見て小さく頷くと、ゆっくりドアを開けて室内に侵入した。 「…クリア」 そう呟いて手招きするハナヤシキさんに従い、私も後に続く。 部屋には相変わらず弥生が鎮座していた。さっきと違うのは、エレベーターがある通路側の鉄扉が吹き飛んでいることくらい。 部屋の端を見ると、ボコボコに歪んだ鉄扉の残骸が無惨に転がっていた。 さっきまでの私なら、その様子からインガの破壊力を想像して冷や汗をかいていただろう。 でも

インガ [scene003_07]

『ヨシノくん、さっき君らを襲った2体のインガは先輩が潰した。けれど、まだ1体残ってる。 先輩が弥生で護衛してくれているけど、注意してくれ』 耳の裏に張り付けたシールが耳小骨を揺らし、ハルさんからの忠告が聞こえてくる。 「ヒバカリさんはどこに居るんでしょうか」 『IMGの反応は、まだあいつが空中庭園に居るって言ってる。正直、どこにいるのやら…』 こうなったらシラミ潰しに探すしか…でも、ハナヤシキさんの弥生がついているとはいえ、1人でこの広大な敷地内を隈なく探すというのは

インガ [scene003_08]

このとき私の脳は、完全に思考を止めていた。状況が全く飲み込めなくて、自分が生き残るための結論なんてすっかり見失われてしまったから。 足元で膝を折っているのは、ついさっきまで私を護ってくれていた命の恩人。 その人に銃弾を撃ち込んだのも、昨日から私を護ってくれている命の恩人。 信じていた人が、信じていた人に撃たれた。 この状況は一体どういうことなのだろう。ヒバカリさんは…この人は、一体何をしているのだろう。 「…ヒバカリ、貴様……これはどういう事だ」 銃身越しに鋭い視線

インガ [scene003_09]

鉄棒の端から、ドクドクと鮮血が流れ出している。鉄棒の空洞を通って放出されていくそれは、ハナヤシキさんの生命だった。伴い、見る見るうちにハナヤシキさんの顔が青ざめていく。 「…意識が薄らいでいく」 ハナヤシキさんが呟くと同時に、睦月と組み合っていた弥生も糸が切れたマリオネットのように崩れた。 勝負がついた。 ハナヤシキさんは…もう、助からないだろう。 それを悟ったヒバカリさんが鉄棒から手を離し、支えを失ったハナヤシキさんは壁を背に座り込む。 「…先輩」 「…憐れむ

インガ [scene004_01]

さて、俺のことと君のお父さん…染井博士の話だったな。 切り分けて話すと却ってややこしくなる。が、簡潔にまとめるのも難しい。 というわけで、昔話をしよう。 そうさな、最初から話すとなると…8年前まで遡る。俺は当時、財善の警務部に居た。今じゃおまわりさん役なんて呼ばれているが、当時はどちらかというと軍隊的な組織でな。内輪じゃあパラミリと自称していた。 パラミリというのは市民軍のことで、俺たち会社員が武装した組織にはピッタリの名称だった。 何が言いたいかって?血なまぐさい職

インガ [scene004_02]

都民暴動で武器を取った民間人は、そのほとんどが職を奪われた20代後半から40代の成人だった。 しかし、企業側にとって真に脅威となっていたのは少年少女たち。 「お察しいただけるとは思いますが…年端もいかない子供たちを前にして、無感情に引き金を引けるエリートは我が社に居ませんでした。 彼らの要求は、我々が制圧したエリアで路頭に迷った都民らの雇用受け入れ」 眉間にしわを寄せてそう言うアドワークス警務部長は心底やるせないといった様子で、俺たちは何と声をかけたらいいかわからなかった