高尾歳時記 番外編 : 三頭山周回 2023年8月27日(日)
東京というと、脳裏に真っ先に去来するのは都会のイメージでしょう。あまり自然豊かなイメージはないかもしれません。もちろん普通そうでしょう。全く間違っていません。
ですが、少なくとも登山に関してだけ言えば、実は東京は恵まれた場所なのです。東京都心からは、電車やバスで気軽にアクセスできる本邦指折りの山域が複数あります。火山である箱根山が数万年という途方もない時間をかけて作り出したカルデラ湖や外輪山をはじめとし、まだ火山が生きていることを示す、谷から噴き上がる噴気など地学的重要性の高いダイナミックな地形が特徴の箱根。南方の島が衝突し、その衝撃によるシワが生んだ稜線のダイナミックな縦走登山ならびに豊かな水資源が織りなす谷や沢など、バリエーション豊富な山遊びへと誘う丹沢。気候帯の絶妙な境目に位置し、複雑な植生が世界的にも稀有な命のゆりかごとなっている高尾陣馬山塊。そして東京の奥座敷、都民の憩いの森である奥多摩です。
それぞれにはそれぞれの魅力があり、また、それぞれの季節において違う姿を見せてくれることから語りに尽くせないものがあります。丹沢や箱根も候補にいろいろ迷いましたが、今日は奥多摩三山のひとつ、三頭山を選択。
三頭山は奥多摩三山のひとつ。これらの山を繋いで縦走するコースは奥多摩屈指の名ルート。
嬉しいことに、日常お仕事その他でとにかく忙しい奥さんが一緒に来てくれることになりました。このために時間を割いてくれる奥さんが「これは楽しい」と思ってくれれば、自分も楽しいし嬉しい。三頭山の魅力がたっぷりと詰まった周回ルートを張り切って計画し、ルートはもちろん、花や樹木や景色のいいところや遠景の峰々や周辺の地勢と歴史、そして当日の天気、ウェアや装備、シューズの選択や登山道の危険箇所と注意点、ならびに計画上のポイント通過時間からペーシング、さらに交通手段や下山後の温泉そしてお昼ごはんまで、全てばっちりガイドします。奥さんも(目の肥えた)経験豊富なハイカーで諸々よくわかっていますので、事前に客観情報を伝えれば水食料を含めた携行品をはじめとした準備はばっちり。
三頭山の最大の魅力は、古来より連綿と受け継がれてきたブナとミズナラを主体とする原生林です。都内においてこのような森は極めて珍しく、隣接する山梨県の一部を除けば、一番近いところで磐梯山など東北の森に行かないと同様のものは見られません。現在奥多摩湖を囲む周辺の山は、江戸時代後期までには森林伐採により禿山となり、森は人為で一度消失したことがわかっています。ですがここはその影響をまぬがれ、太古の森が保存されているのです。
もうひとつ、ここはブナ林が山と一体的に水資源を膨大に保持しており、伏流水の一部は地表に湧き出て清らかな沢となり、万物を育みます。まさに上善水のごとし。この水の豊かさは、三頭大滝の、いつまでも尽きない、岩肌を伝って流れるその清楚な滝の流れが控えめながらも雄弁に語ります。鮮やかな森の緑に彩られた夏の三頭大滝も見事ですが、氷結した真冬の氷瀑も白眉。新緑の春そして錦秋の紅葉の時期も素晴らしく、一年中、そこには訪れる価値ある二度とない時間が流れています。
緑深い晩夏の三頭山を巡ってきました。
(注1)
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出典:国土地理院ウェブサイト(地理院地図:電子国土Web)
GPSデータに基づく軌跡を描線。
図形等加筆。