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【読んだ本の話】中島敦の短編を読んで才能に唸る。語彙は難しくても文章が明快。
読書の師匠がいます。
もう70代半ばに入っている骨董屋さんで、江戸時代以降の焼き物への知識が深い。その人は読書の鬼でもあり、色々な本を貸してくれる。大体読めません。
その中の一冊、中島敦の「李陵・山月記」という短編集を読みました。
「山月記」は国語の教科書に載っていることが多いので、ほとんどの人が触れてきた名作ではないでしょうか。古代中国、自分の詩の才能を信じて拗らせた男子が発狂して虎になり、山で生きているところに昔の友人が遭遇するエピソード。
それもいいのだけど。
この本の代表作であり、作者の死後に発表された「李陵」がとってもいい。
古代中国、漢の武帝が圧倒的な力で国を治めていた頃。北の国である匈奴との戦いにおいて、腕のいい武将・李陵が歩兵だけ5000人を連れて北へ出発。匈奴の騎馬部隊に歩兵ながら善戦したものの、やっぱり敗れて捕虜にされる話です。
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難解な語彙が気にならないくらい文章がわかりやすい
古代中国が舞台である小説その他。
私は読めるものと、まったく受け付けないものがあります。そもそも知識がないと、すぐに置いていかれる。
白川静さんが書いた「孔子」を途中で放り投げ、代わりに?井上靖著の「孔子」を読みましたが。宮城谷昌光さんの「三国志」は最初の10ページも読めていない。最近岩波新書「諸葛孔明」(立間祥介著)を読みかけて放置中ですが、まだ諦めてはいません。吉川英治さんの三国志は1冊だけ読んで、終わり、、、。
そんな、生半可な自分が、中島敦さんの「李陵」は続きが気になってサクサク読めるほどでした。
もちろん語彙は難解。
でも、文章の難解さは、言葉の意味を知っているかどうかではないと実感しました。
言葉の意味がわからなくても、論理が明快なら意味がわかる。
例えば、英単語を知らなくても英文を読めるように(前後の、意味がわかる単語と文法を組み合わせると、全体像が掴める感覚)。
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李陵と司馬遷
この「李陵」は、李陵にまつわるエピソードと、同時代に生きた司馬遷のエピソードが両輪になっていて。
司馬遷といえば宦官!
なぜ宦官になってしまったかが詳しく書かれていました。その後、彼がどうやっで史記を完成させたかも。
宦官といえば、最近話題の漫画とアニメ「薬屋のひとりごと」でも出てくるキーワードで。漫画なら読める(威張れない!)。サンデーのアプリで無料公開されていた時、2つのアプリを行き来しながら数日かけて最新話まで読み切ったばかりです。
ただ司馬遷も李陵も、最後にハッピーエンドかどうかというと、わかりませんが。
史実だけではなく、それにまつわる心の葛藤を微細に書き込んであり、その動揺、焦り、郷愁、後悔など、色々な感情を想像するだけで胸が掻き乱されるような感覚を味わうのでした。
古代中国を舞台にした小説は何冊もあれこれ読むとやっとわかる
孔子の弟子である、子路を主人公にした短編「弟子」も良かったです。
あれこれ読んでいると、古代中国を舞台にした小説は、ベースになる書物が同じであるからこそ、似たエピソードが出てきます。
「弟子」を読んでいたら、宮城谷昌光さんが書いた「夏季春秋」に描かれたのと同じエピソードが出てきて、時代がリンクするのを見てワクワクしました。
国の名前や地図や人物名がちっとも頭に定着しなくて、読んでも読んでもなかなか楽しさを味わうところまでいかないのですが。
こうして何度も読書を重ねるうちに、少しずつ全貌がわかるようになってくると、きっと楽しいのかも。しれません。予想。いや妄想です。
読めないまま放置される本の多さよ。
けど、「読めなかった」ことも読書の一部だという記述をどこかで読んで、妙に納得しています。
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