【読んだ本の記録】宮城谷昌光先生の「夏姫春秋」にやっと辿り着いた
浜松市在住の直木賞作家、宮城谷昌光先生。
近所の偉大な先生! ということで、ずっと著書を読もうと試みたものの。ノー知識で挑んだ「三国志」で跳ね飛ばされ(代わりに吉川英治さんの三国志を一巻だけ読んで満足するというダメっぷり)、その他いろいろ図書館で借りては全く自分の歯が立たない状況にがっかり。
でも、知人から「いきなり長編小説を読もうとしちゃダメ。エッセイや読みやすい短編から慣れるべき」とアドバイスを受けて、宮城谷先生の自伝エッセイ2冊と、比較的短い「花の歳月」を読んでみることに→楽しく読めた。
とてもユニークな文体、圧倒的な漢字の知識、下調べに数年かける真摯な姿勢が実を結ぶ古代中国を舞台にした小説の素晴らしさ。
それを、やっとやっと体験できた「夏姫春秋」だった。
しかもこれが直木賞受賞作、宮城谷先生が筆を折る決心をした40代後半、ついに脚光を浴びることになったきっかけの一作。
ここから始まる長い長い小説家人生の、ほんのスタートライン。
史実をしっかり学びながら、自分の頭脳で考え尽くした結果の見地を混ぜてあり、その「文脈に突然登場する書き手の思惑」がとてもナチュラルに馴染む。
ストーリーは、中国古代の春秋戦国時代、小国鄭の王の元、絶世の美女として生まれた夏姫。兄との恋に始まり、男たちから求愛され続け、彼女の人生は翻弄され続ける。美貌を使って世間を渡り歩く様子は実の息子から憎まれ、息子は夏姫を寵愛する王を殺して自らが王になるも、隣国の王に攻め込まれて殺される。悲惨すぎる人生かと思いきや、最後の最後に彼女を幸せにしてくれる男性が現れる。
という、夏姫以外の男たちがずっと入れ替わり立ち替わりやってきては消えていくストーリー(大雑把)。
特筆すべきは「漢字の使い方」。
漢文学者の白川静先生の著書から勉強を重ねた宮城谷先生は、「みる」一つをとっても13通りくらいの書き分けをする。意味にしたがって。例えば、「看る」は手をかざして「みる」時に使う、など。
ちょうどいい漢字がない場合は徹底してひらがなで表記するなど、言葉そのものを小説の表現道具として絶妙なバランスで使っていらっしゃる。
自分の不勉強ぶり、知識のなさをありありと実感するばかりで、本当にひれ伏したいけれど。
ようやくまともに読めたことが嬉しいものの、まだまだうず高く積み上がっている著書の数々。やっとスタートラインでしかない。もっともっと、この世界に触れてみたいと思う。
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