基礎研究と応用研究って何?基礎研究をおろそかにする奴らに物申す(半分くらいはPD-1の素人話)
こんにちは、海外で現役ポスドク(生命科学系)をしておりますポス山毒太郎と申します。このnoteはあくまで毒太郎の体験を元に、偏見に基づいた感想を語っていく場です。ですのでほとんど統計値などは出てきませんので悪しからず。
唐突ですが筆者はとある病気の研究をしています。そしてnonMD(非医師)のPh.D.(博士)なので、基礎研究をしています。
研究者の皆様なら基礎研究のことはよくわかっていると思いますが、研究者以外の方々はなんの事かよく分からないかもしれません。
ネットで検索してみると以下のサイトが出てきました。
なんかやたら漢字が多いですが、最初の文章に、
と説明があります。
それに相対するものを応用研究と言います。これも同サイトの別ページにありまして
と説明されています。
また、筆者は知りませんでしたが、このページでは、基礎研究、応用研究以外にも「開発研究」というのがあって、これに関する記載もありました。正直聞いたことがありませんでしたが、ここに引用しておきます。
今回は、上の説明で事足りているかもしれませんが、基礎研究と応用研究について語っていきたいと思います。
ただし筆者の中での定義もありますので、実際にはグラディエーションがあると思います。筆者は応用研究だと思っていますが、「いやそれは基礎研究でしょ」と思う方もいるかもしれません。ご容赦ください!
基礎研究って何?
例えばある病気の研究をするとします。
すると「どうやって病気になるの?」の疑問に答えようとするのが基礎研究です。もう少し細かくいうと病気になるメカニズムを解明することが基礎研究と言えるでしょう。
他にも、ある病気に効く薬があったとして、それがどのようにして効くかを調べたりするのも基礎研究の範疇です。
病気が関係なくとも、受精卵がどのように分化していくかとか、脳細胞がどのように軸を伸ばして、配置されるかとか、行ったり来たりするとか。。。
要は「事象の根源に挑む」のが基礎研究だと考えられます。ちょっと大袈裟な言い方ですかね笑。自惚れているつもりはないです。
応用研究とは?
それに比べて応用研究はどうでしょうか?
病気の研究で言えば、病気の人を集めて薬を使って、「その薬が効くか」調べる治験が応用研究に当たると思います。
また病気の人のサンプルを集めて解析して、何か原因があるかもしれない遺伝子や、因子を見つけたり、などが当たります。
病気サンプルを集めて解析するのは個人的に応用研究の範疇と思ってますが、よくよく考えたら基礎研究の臨床研究に入るのかもしれません。んー筆者の解像度が低いので記事も薄くなっていますね。
文部科学省による応用研究の定義では「特定の目標を定めて」とありますが、基本的にこの「目標」は薬の開発や、機器の開発があたります。要は「人の役に立つ」ことにあたります。
ですが科学的に新しいことを発見しているわけではありません。発見された新しい事象から、「目標」を定め開発するのが応用研究です。
ですのでものすごいざっくり言うと、科学的に新しいことを見つけるのが基礎研究、人の役に立つのが応用研究と言えるでしょう(こう言いきっていいかちょっと不安。。。)。
免疫学者じゃないのにPD-1を例に語る!!
ここでは、研究者でない皆様も一度は聞いたことがあるであろうPD-1とPD-L1(ピーディーワンとピーディーエルワンとそのまま読みます)を例にとって語りたいと思います。ただし、筆者は免疫学者ではないし、がん研究者でもないので合っているかは不明です、ふんわりです。
まずPD-1とPD-L1は細胞の表面に存在し、鍵と鍵穴のような関係でくっつきます。
がん細胞側がPD-L1、がん細胞を駆逐する免疫細胞がPD-1を持っています。そして、がん細胞と免疫細胞が、これらを介して結合すると、がん細胞が免疫細胞の機能を抑えてしまいます。その結果、我々の免疫機能を落としてがん細胞がどんどん増えてしまいます。
このPD-1とPD-L1の、がんに対する免疫機能を落とすというメカニズムを発見し、ノーベル賞を受賞したのが、本庶佑(ほんじょたすく)先生です。ここは基礎研究の領分です。
では、この二つの鍵と鍵穴がくっつかないように、人工的な鍵で先に蓋をしてしまえば、がん細胞由来の鍵であるPD-L1は、PD-1に結合することができません。すると免疫細胞の機能が落ちず、その分がん細胞は駆逐されることが予想されます。
このように「PD-1に結合する鍵を人工的に作成する事で薬に応用する」という目標ができます。
この人工的な鍵を開発するのは、基礎研究のような気もしますが、、、基礎研究と応用研究の中間としましょう。
そしてその人工的な鍵が人に効くか試すところが応用研究で、この鍵が効けばあら不思議、超高額の鍵(オブジーボ)の出来上がりです。
ちなみに日本には高額医療制度があるとはいえ、これを死を待つのみのがん患者にバンバン使うのは如何なものかとちょっと思ったりしますね。おっと誰かが来たようです。
このストーリーを見てわかると思いますが、『薬になる』ということに関しては基礎研究と応用研究のどちらも同等に大事です。
ですので基礎研究が上、応用研究が下というつもりはありません。
ここから何が言いたいかというと、PD1とPD-L1の関係性が発見されてすぐに薬になるわけではないのです!!
少し調べただけなので間違ってたらすみませんが、本庶グループがPD-1を同定した(見つけてきた)のは1992年です。
てかPD-1てprogrammed cell death 1だったんですね。Fasの逸話とか、ここら辺はまさに日本の研究の黄金期ですね。あんまり詳しく語ると筆者の所属がバレるー!!
そしてPD-1 PD-L1のメカニズム(どんな機能をしているか)を詰めてきたのが、恐らく下の論文でそれぞれ2000年、2002年です。
世界のMINATO!!
そしてがんの治療薬(ニボルマブ、商品名:オブジーボ)として承認されたのは2014年です。
もちろん本庶グループの発見はこれだけに留まりませんが、PD-1という遺伝子に着目してから薬になるまで22年間かかってます。
ちなみに「22年は長い」と思うかもしれませんが、筆者的にはめっちゃ運がいいし速いと思います。いや、運がいいと言ったら本庶先生やその家臣たちにブチギレられるでしょう。センスがあると言っておきます。流石にレジェンドすぎるし怖そうだから茶化せないんだよなぁ。。。
実際に本庶先生の凄いところはPD-1の一発屋じゃないところですからね。
話は戻りますが、実際にはPD-1のように分子の発見から薬になるまで一本道なことはほとんどないでしょう。というか遺伝子のほとんどは発見から100年経とうが薬になったり人の役には立ちません。しかし逆を言えば、数百年役に立たないと思われていたものが、ひょんな事から後に掘り起こされて「何かの役に立つ」可能性すらあるのです。
ですので筆者を含む基礎研究に「それ、何の役に立つんですか?」と聞くのは厳禁です!!
「まあいつか役に立つかも、むにゃむにゃ」というしかないでしょう。
研究の申請書に「このメカニズムを解明することによって、_の治療や診断の礎になる」と書くのはあるあるです。ですが実際のところ、役に立つとはあまり思ってはいません!あくまで「礎になる」です!!
ですので基礎研究者からしたら、応用研究は「なんも新しいことを明らかにしてないよね。薄っぺらい研究しているなぁ」と感じるし、応用研究者からしたら、基礎研究に関して「その研究、なんの意味があるんですか?世の役に立つんですか?」とお互いに馬鹿にしたり、時にリスペクトしあったりするのが世の常です。
もちろん基礎研究と応用研究は研究の両輪ですので切り離すことはできません。日本は応用研究に舵を切りつつあるように感じますが、一時的には薬等の成果は出せるかもしれません。しかし基礎研究というタネがなければ、いずれそこをつきます。というかここの基盤技術を海外に全て握られることになります。
筆者が思う一番目指すべきいい研究、いい論文は、基礎研究的にも新規性があって、応用研究的にも大いに意味があるものだと思います。
要は『科学的に面白くてしかも役にたつ』研究です、そんな研究あるんか笑?
こういういい研究は優秀な医師研究者に任せて、筆者は、「それ人の役に立つんですか?」と聞かれる一人喜悦り(マスべ)研究をこれからもやっていきたいと思います!!自分の知的欲求を満たすためです!!別に自惚れているつもりはりません(2度目)!!
筆者は病気の研究をしていますが、正直言って患者を治そうとはあんまり思っていません。実際の患者さんを鑑みない大変不謹慎な言い方なのは認めますが、病気の研究を楽しんでいます。筆者は、ただただ新しい、誰も考えたこともない、見つけたことのない病気になるメカニズムを発見するのが楽しいと思っているのが研究のモチベーションです。
筆者のこの世で一番好きな瞬間は「世界広しと言えど、この事実、実験結果を誰も知らない瞬間がある」と感じる、データを出してボスや同僚に報告する前の時間です。
今では、実験も大規模化してきて、一つの実験に色々な人が関わることも多いので、あまりそういった瞬間に立ち会えないのは残念ですね。
そして筆者は思います。臨床、応用研究は先ほど言ったように例えば病気の患者や病気由来のサンプルを大量に揃えないといけません。そしてその数で日本はアメリカや中国に勝てません。
特に中国には倫理的なところも含めて勝てないでしょう!!
いや倫理的には日本が勝ってるのか笑。
もちろんだからと言って諦めるわけにはいかず、日本でそういった臨床、応用研究もやるべきです。が、もっと基礎研究を大事にすることを提言します(筆者のポジショントークマックス)!!
だからお金ください(直球)!!
応用研究者は思うでしょう。
「基礎研究だって一緒じゃん。米中の二番煎じじゃん」と。
それは残念ながらその通りです。現在は特に網羅的に解析する手法がたくさんあるので、ほとんど米国、中国にしゃぶり尽くされて、その残り物を日本等が拾う作業になりつつあるかもしれません。
今後は特にその傾向が強くなると思います。筆者の知らないクローニング戦争は日本にとっていい時代だったんだろうなぁ。。。
ただしそこには個人のアイデア、運が入る余地があるのが基礎研究のいいところです。
応用研究と違って、基礎研究には「答え」も無限にあるし、それに至る経路も無限にある、その裾野の広さがもいいところと言えます。もっと言ってしまえば一発逆転があり得るのが基礎研究です。
一方で応用研究はある程度「答え、目標」は決まっているので、一発逆転は本当にない気がします。
逆に言うと基礎研究は「答え」と「経路」が無限にあるので、ほとんどの研究は一見無駄に見えるかもしれません、というか実際無駄でしょう。人によっては「そんな無駄な研究にお金をかけるのは意味がない」と思う方もいるでしょう。
ですが本庶先生のPD-1もかなりストレートと思いきや発見から22年かかって薬になっています。またPD-1もいきなり見つかったわけではなく、その前にはアポトーシス(細胞自死)の概念の発見等、先人達の意味があるか分からない研究成果の積み重ねがあっての発見だと思います。
このことを「巨人の肩に乗る」という表現する事もありますが、筆者的には「研究者の死骸の山の上に立つ」という表現の方が好きです。
筆者はまあ、、、死骸の一つにでもなれれば本望です。。。
ただし現状死骸になれるかすら不明です。
みんなも科学の山の死骸を目指してみないか!?
最後に
いかがでしたでしょうか?基礎研究、面白いと思っていただけましたでしょうか?
研究者以外の皆様にも、我々の「無駄な研究の意義」を少しでもご理解いただければ幸いです。
また今回の記事は、書いてみると筆者の中での基礎研究、応用研究の定義が違かったかもしれません。ざっくり生化学、細胞、マウスや動物実験は基礎研究で、ヒト、もしくはヒトサンプルを用いると応用研究と思ってました。が、ヒトサンプルを用いた研究は基礎研究の臨床研究というカテゴリーになるっぽいです。
しかもなんか半分くらい免疫学者でもない素人のPD-1の話になるという謎の記事になってしまいました。
なんか薄っぺらい記事だって?察してください。
本記事の結論は、「本庶佑はやっぱりすごい」でした!!
ちなみに上記の論文はscopusで調べて、引用数の多い順でソートしてざっくり調べました。違かったらすみません。
https://www.scopus.com/authid/detail.uri?authorId=36013822600
scorpusの使い方は簡単ですが、一応以下の記事で解説しているので興味のある方はぜひご一読ください。
また本記事で紹介した本庶佑先生のエッセイ集を載せておくので、研究者ならざっくりでもいいので読まれることをお勧めします。
更には以前に数回紹介していますが、今記事で登場いただいた本庶先生と、筆者がファンである元慶應教授の吉村先生やその他のレジェンド研究者が「独創的な研究とは何か」について語った伝説のスレッドがありますので、こちらもシェアできればと思います。まあ正直当たり前のことしか書いてないですが必読!!
さて、本記事をもって本編記事は第40回を終えましたので、次回は区切りとして、自分の記事をレビューするという、その名も”第4回 自記事レビュー”をしたいと思います。第31-40記事の簡単な解説と、それぞれの記事を出したときにどんな反響があったか語りたいと思います。
では現場からポス山毒太郎でした、次回もお楽しみにー!!
この記事に出てきたリンクと関連記事まとめ
最後まで読んでいただきましてありがとうございました。本記事で出てきたリンクと関連記事を下にまとめましたので、興味がありましたらクリックいただければと思います。