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【短編小説】PayPay始めました

当時を振り返って(記事へのひと言コメント)
新しい文体。連ツイしていくときのあの感覚をイメージして書いてみました。この小説のなかの主人公と似たような体験をしたことがある人って多いんじゃないかな、と思う。こんなときはどうするのが正解なんだろ🤔

新しい文体。連ツイしていくときのあの感覚をイメージして 振り返りnote 2月18日〜24日


小岩のタワマンで飲んだあの日のことを私は忘れていない。私の友達には実家の太いヤツがいて、私たちがまだ大学生だった頃に、そいつのタワマンで飲み会をした。

私はタワマンのエントランスをくぐること自体初めてだったから知らなかったんだけど、タワマンにはパーティールームがあるみたいで、私の友達は私たちのためにその「パーティールーム」を予約しておいてくれた。

ありがとう〜

と軽いノリでLINE返信したんだけど、その「パーティールーム」は内装もお洒落で、洗練されていた。おまけにカラオケもあった。私はカラオケが苦手だから、それを目にしてげんなりとした。

歌うのもイヤだし、ひとが歌っているのを見るのもイヤ。

どうして他人の歌を、まるで自分の歌みたいに、あんなに気持ち良く歌えてしまうんだろう、その神経が知れなかった。

カラオケが始まったらトイレに行って、スマホでもいじっていれば、適当に時間が経つかなぁ。それとも、急な用事を思いだして、ごめんなんだけど、帰らないといけなくなっちゃったのぉ、とか言えばいいかな。タクシーアプリの「GO」をつかえば実質タダで帰れる。私、2000円分のクーポンを持ってる。

でもその日は結局カラオケ大会は開催されなかった。後日聞いたら、カラオケを見た途端にあからさまにイヤな顔をしている私の表情をBは目撃していたのだという。「ごめんごめん」と私はBに謝って(よくよく考えればべつに謝る必要もないんだけど)モスバーガーの黒毛和牛バーガー690円をおごってあげたんだった。あれマジで美味い。

Bはあの日の集まりの主催者的な立ち位置で、「もし可能だったらでいいんだけどぉ……」とタワマンでのパーティー開催の打診をしたのもBだった。

タワマン住人は、Bからの打診を快諾。「だったらぁ、私の部屋でもべつに全然構わないんだけどぉ、じつはあたしの住んでるとこ、パーティールームっていう部屋があってぇ……(後は省略する)

ここだけの話だが、タワマン住人のことを私は「江戸川女子」と陰で呼んでいる。その名の由来はもちろん「港区女子」である。小岩は、江戸川区にあるから、それで「江戸川女子」。なんか、絶妙に芋っぽくてウケる。

で、その日飲んでたときに酒が足りなくなって、私と「江戸川女子」の2人で買い出しに出かけたの。「マンション出てすぐのところにセブンはあるんだけど」と江戸川女子が言った「5分くらい歩けば成城石井があるの、そっち行かない?」

私たちは歩いた。成城石井に向かって。たぶん5分以上歩いた。7分は歩いた。寒いのに勘弁して〜😖

私が、サッポロ黒ラベル350mL、6缶パックをカゴのなかに入れようとしたところで、「まだビール飲むの?」と江戸川が言った「せめてキリンにしなよ」。私は、無意味な対立を避けるために、その無意味なアドバイスを黙って聞き入れた。正直なところ、私はビールはアサヒかサッポロ派で、キリンはありえないという立場なんだけれど、今はそんなことどうでもいい。私が驚愕したのはその後の出来事。

江戸川がシャンパンとかワインとか、どんどんカゴに入れてきて、「大丈夫かな? こんなに持って帰れるかな?」と私は言った。「大丈夫だよ、たった5分間持って歩くだけだよ、部屋で待ってるみんなのために頑張ろうよ」と江戸川は言った。だーかーらー、5分じゃなくて7分だっつーの。

レジにカゴを置いてお会計をするときに江戸川が決済用のスマホ忘れてきちゃった、と言いだした。「ごめん、立て替えといて💦」

会計はゆうに3万円を超えていた。で、私はなんの気の迷いか、次のようなことを口走ってしまったのである。「いやいやぁ〜、今日はパーティールームも借りてもらったし大丈夫だよ〜私が払っとくよ〜」

「いやぁ〜それとこれとは別だよぉ〜」と江戸川。

「別じゃないよぉ〜。だって、〇〇ちゃんがいなかったら、私たちあんなところで飲んだりできないんだから〜」と私。まじで何言ってんだ。

「んん〜」と江戸川が口を「へ」の字にした。そのあとで、わざとらしく笑顔をつくって、「ありがとう! 甘えちゃう!」と江戸川は言わなかった。なにせこの女はカネには困っていない。それは正確に言えば、彼女のカネではなく、親のカネだ。この女は親のカネが湯水のように湧いて出てくると勘違いしているのだ。それは親が汗水流して稼いだカネだというのに。

「スマホも置いてきちゃったみたい。帰ったらPayPayで送金するね」と江戸川。
「ごめん、私、PayPayやってないの!」
「え、やってないの?! 今どき!!」
「楽天ペイならやってるんだけど……」
「あぁ……楽天経済圏の住人ねぇ……」

と江戸川はわかったような口を叩いた「じゃあ今度現金下ろして渡すね。もう現金なんてしばらく手に持ったことないんだけど……」

「悪いね」と私は言った。

結局、私が江戸川から現金を受け取ることはなかった。私はそのことを江戸川にも、Bにも、そのほかの友達にも伝えていない。みみっちい人間だと、思われるのがイヤで……。でも先日、仕事で楽天の決算報告書に目を通す機会があって、楽天経済圏の行く末を案じ始めた私はついにPayPayをインストールし、ついでにPayPayカードも申しこんでしまった。2月28日までに申し込めば、条件付きだが、最大7000円分のPayPayポイントがもらえるからである。念のため、言っておくが、これは案件でもなんでもない。

「PayPay始めたんだけどぉ〜……あのときのアレ……送金してもらえたりしないかな🙏」私は大学を卒業してから数年ぶりに江戸川に連絡をとってみたとして、彼女がどんなふうに返信してくるかを妄想して楽しんだ。


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宮澤大和
今日も最後まで読んでくださってありがとうございます。 これからもていねいに書きますので、 またあそびに来てくださいね。