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人生を見つめ直すヒント満載!? とにかく「とんかつ」の「自分探し」が止まらない絵本

突然ですが、みなさん「とんかつ」は好きですか?
私は、めっちゃくちゃ大好きです!!!

今回は、世にも珍しい「とんかつ」が主人公の絵本『とんかつの ぼうけん』について、編集担当の私がご紹介します。
ゲラを読むたびに、「とんかつ」や「かつどん」が食べたくなって何度店に駆けこんだことか……。

そしてこの絵本、こどもはもちろん、是非大人にも読んでもらいたいお話なんです。

『とんかつの ぼうけん』(作/塚本やすし)

「とんかつ」が、「ぼうけん」だと……? 揚げ物に目がついてて、耳と鼻があって、尻尾も生えてる。しかも、あっかんべーしてるし……なんなん?!

このユーモラスな主人公は、作家の塚本やすしさんと編集担当が何度も打ち合わせを繰り返す中で誕生しました。

絵本作家の塚本やすしさん

「恐竜が出てくる絵本を作りたいです……」
「じゃあ、恐竜がおばけという設定に……」
「いやいや、やっぱり食べ物が主人公のほうが親しみやすいかも……」
「では、かつ丼からおばけが出てくるのはどうでしょう……」

そんな議論を喫茶店で重ねるうちに、ある走り書きが目に留まりました。

(とんかつの体に、ブタの顔とか)

「かわいい……!!」
空飛ぶとんかつ、いいですね!!」

この走り書きから、流れるようにストーリーが生まれました。
出来上がってみると、そのお話は、こどもたちが笑って楽しめるだけでなく、将来の進路に不安を持つ大人たちも、是非読んでもらいたい内容となりました。

さて、いったいどんな内容なのか……あらすじは、こんな感じです。

舞台は、とある「かつどん屋」さん。
ところが、両親に連れて来られたこどもたちは口々に、かつカレー、カツサンド、とんかつ定食と……どうやら「かつどん」じゃないものが食べたいみたいです。

その話に、主人公の「とんかつ」は調理場で聞き耳を立てていました。

なんと、「とんかつ」は空を飛んで逃げだしました。このお店で「かつどん」になるという、自分の運命に逆らって。「かつどん」ではない未来があると知り、「とんかつ」は自分の中のパッションを抑えることが出来なかったのです。

「とんかつ」は言います。
「ちがう たべものに なりたいの。いろんな おみせを みてくるね!」
外に飛び出すと目の前には広大な大地が、そしてカレー屋さん、パン屋さん、定食屋さんなど、たくさんのお店がありました。

カレーのいい匂いに誘われて、「とんかつ」はお店に忍びこみます。コックさんがかけたカレーを、ぺろっとなめてみると……。

その辛さに悶絶する「とんかつ」……。
はてさて、この後、自分探しの冒険はいったいどうなるのでしょう?


この絵本を、将来に悩む大人たちにも読んでもらいたいと言った理由が、お分かりいただけたでしょうか?

自分がなりたいものは何か? 自分は何者になれるのか? そこには「とんかつ」の将来への試行錯誤と、自分の心の声に耳を傾けるまっすぐな気持ちが描かれているように思います。
進学、転職、引っ越しなど、人生には誰しも自分を見つめ直すポイントがあるかと思います。そんな時、この絵本に出てくるがむしゃらな「とんかつ」の姿は、きっと私たちに勇気を与えてくれるはず……!

主人公の「とんかつ」は、安住の地を見つけることが出来たのでしょうか、それとも……。
その結末は、ぜひ絵本で!

(文/齋藤侑太)

塚本やすし(つかもと やすし)
東京都出身。主な絵本に『このすしなあに』『はしれ! やきにくん』『とうめいにんげんのしょくじ』『もうじゅうはらへりくま』『あっ ごきぶりだ!』(以上ポプラ社)、『つちのこをさがせ!』(新日本出版社)、『じごくわらしがくるぞ!』(マイクロマガジン社)、『ふねひこうきバスきしゃ』(くもん出版)、『にじゅうおくこうねんのこどく』(谷川俊太郎・詩/小学館)など多数。
『しんでくれた』(谷川俊太郎・作/佼成出版社)で第25回けんぶち絵本の里大賞びばからす賞、『やきざかなの のろい』(ポプラ社)で第6回リブロ絵本大賞・第9回ようちえん絵本大賞。『戦争と平和を見つめる絵本 わたしの「やめて」』(自由と平和のための京大有志の会・文/朝日新聞出版)で第7回ようちえん絵本大賞など、受賞多数。
日本全国の図書館やイベント会場、書店等で読み聞かせやライブペインティングを行っている。

★他にも、たくさん! 塚本やすしさんの「たべもの」絵本★