戦争への憎しみを、今を生きる私たちがどれだけ受け止められるのか。『ねんどの神さま』――絵本を思い出すところ#21
絵本の中の風景へ想いを巡らすとき、それを手にした幼い頃の記憶もまた、絵本の思い出の一部になっていく――そんな「絵本を思い出すところ」を編集者とカメラマンが探していきます。
8月の空を、飛行機が飛んでいく。
暑さがマスクのなかを直撃する。
これまでも、そしてこれからも、
この絵本を思い出すことを止めてはならない。
戦争の記憶は、おじいさんから
聞いたわずかな言葉だけ。
けれど、本を開くだけで私たちは
たくさんの記憶に触れることができる。
少年が「神さま」にこめた
戦争への憎しみを、
今を生きる私たちが
どれだけ受け止められるのか。
たとえば、この街にそびえる
高層ビルのひとつひとつは、
あの日から、どうやって
ここに建っているのか。
戦闘ヘリに囲まれた怪物が見下ろした、
東京の街の風景を想像する。
月に向かってほえる、
毛むくじゃらの怪物になった
「神さま」が見た風景を。
少年が抱きしめる、
ねんど細工の「神さま」を
月の光がやさしく照らしている。
私たちは、このねんど細工のように
壊れやすいものを
大切にしていけるのかと
いつまでもいつまでも問われている。
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『ねんどの神さま』 作/那須正幹 絵/武田美穂
太平洋戦争終結から1年後、9月のある日の事。小学校の教室で、少年はねんど細工の「神さま」を作りました。それは戦争で父や母、兄弟もすべて無くした健一少年の、戦争に対する憎しみが表現された作品でした。長い年月が経ちました。校長室に残された「神さま」は、ある満月の晩、クマのような黒い毛におおわれた巨大な怪物へと姿を変えました。練り歩く怪物は街を破壊し、自衛隊がロケット弾を撃ち込みましたが、まるで歯が立ちません。どうやら怪物は東京にいる、ある人物のところへと向かっているらしいのです……。那須正幹さんの自らの戦争体験に基づいた、反戦への祈るようなメッセージと、武田美穂さんの重厚な絵は、読む人に衝撃を与えます。こどもの読み手だけではなく、その読み手が大人になってからも考えるきっかけをあたえてくれます。ぜひ手に取って欲しい名作です。
https://www.poplar.co.jp/book/search/result/archive/3440027.html
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(文・編集/齋藤侑太 写真/白井晴幸)
ポプラ社 齋藤侑太
1985年、茨城県生まれ。2012年、ポプラ社入社。営業職、社内デザイナー、幼児向け書籍の編集を経て、2020年から絵本の編集を中心に担当。
白井晴幸
東京都生まれ。2010年、多摩美術大学卒。作家として活動する傍らカメラマンとして本の装丁や風景、建築などを撮影している。≪Website≫