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「ますだくん」と30年。子どもたちの多面性を描きつづけて~『となりのせきのますだくん』武田美穂~
子どものときに読んでいた、あの絵本。
お子さんが大好きな、あの絵本。
あの作者はどんな人だろう?
どんな風に絵本を作っているんだろう?
そう思ったことはありませんか? この連載では、子どもの本の作家さんに「日常生活に欠かせない必需品」を3つあげていただき、お話を伺います。
★過去の連載はこちら
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今回お話を伺ったのは、2021年に出版30周年を迎えた『となりのせきの ますだくん』の作者、武田美穂さん。くっきりとした輪郭線、コマ割りの展開は、当時の絵本の表現としては画期的な画法や表現でした。
そんな武田さんに欠かせない、3つのものを教えてもらいました。
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理由がユニーク! 必需品3つ
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DVDは友情の賜物です
——事前に必需品3つを伺った際に、「マジメに答えたら、日常生活に必要なものは『ビールに、ベイスターズに、アニメ』かも」とお答えいただき、われわれ取材班のツボに見事にハマりました。
(武田)いや、それはさすがにと思って、ちゃんと考え直しました…(笑)。1つ目に紹介するDVDは、「Sさん」という、高校時代の友達から貸してもらっているものです。
きっかけは母の介護をしているとき。そのとき放映されていたドラマを録画して、コメント付きで送ってくれたのがきっかけです。彼女は、なんと3台のレコーダーで録画しながらリアタイで全部見てるの。今も、おすすめコメントを付箋と手紙に記して貸してくれるから、それらを読むと、どのドラマから先に見るべきかの優先順位がわかる。
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付箋もたくさん!!
ありがたいことに、もう10年以上こうやって、おすすめDVDを貸してくれているんです。このDVDは「友情」そのもの。友達の数はそんなに多くないんだけど、長い付き合いの友人が多いですね。
あと、絵を描いている時はテレビをつけると気が散らないんですよね。すでにひとつ「気が散っている」環境を作っているから、それ以上は散らない。仕事とテレビという2極に意識を持ってバランスを取っている感じです。寂しさも紛れるじゃない?
こういう時に流すのは日本のドラマで、時間ができると韓流ドラマを観る。プロ野球の春キャンプのシーズン中は、キャンプの様子をオンタイムで観ながらハードディスクに録画して見直したりもしていますね。
でもラフを描いたり、文章を考えているときは、テレビはつけないですね。クラシックを聞くことはあります。父がクラシック好きで、物心ついた頃から、いつも家に流れていたから、そこに意識がいかないというのもある。集中したいときはチャイコフスキーとか。オペラも好きだけど、文章を考えている時に歌曲は聞かないかな。
絵本作家デビュー、原点は父の絵コンテ
——図書館でのアルバイトが絵本作家になったきっかけだとか。ただ絵本作家としてデビューして、一時期絵本の創作から離れた時期もあったそうですね。
(武田)ええ。デビューして間もなく、「いじめっ子」の題材を選んで制作を進めていました。もうすぐ原稿ができるという段階になって、とある媒体に、いじめっ子礼讃に対する批判記事が出て、その影響を受けて「暫定的に出版を見合わせます」と言われたんです。やがて、暫定といっても出版の見込みがないと分かって、その状況に心が折れてしまいました。私の作品は「いじめっ子礼讃」の内容ではないのに…と。
ちょうどその時、企業がコーポレーション・アイデンティティ(CI)を作るのが流行っていて、企業のマークとかロゴをつくる仕事が入ってきたんです。そこでいったん絵本から離れて、フリーランスでCIの仕事をしていたら、1年経ったくらいの時だったかな、ポプラ社さんから連絡がありました。
自由に作ってみない? と言っていただいたので、「ならばコマ割りの絵本を作りたい」と答えると、初めはちょっと尻込みされました(笑)。でも、もう妥協したくなかった。キャリアの最初のころに、言うことをみーんな聞いて作ったのに結局は出版されなかった苦い経験もあり、だから希望が通らなかったら絵本を作れなくていいやと腹を括ったんです。
その後、編集者から「フランスではコマ割りの絵本もあるようだから、やってみましょう」と作ったのが『スーパー仮面はつよいのだ』。
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出版当時は絵本のオーソリティーからは好意的には迎えられなかったんですが、『となりのせきのますだくん』で「絵本にっぽん賞」や「講談社出版文化賞絵本賞」などに入賞してから流れが変わりました。
コマ割りの手法は、映画監督と脚本家だった父の影響です。父の仕事部屋には沢山のコンテがあって、見ちゃいけないと言われていたんだけど、実はほとんど全部見てたの(笑)。「ますだくん」で使ったホワイトアウトの場面とかは完全に映画コンテの影響です。
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『となりのせきのますだくん』20-21ページ
——「ますだくん」は、子どもたちが「みんないい子」じゃなくて、いい面も悪い面も端折らずに描かれているところがリアルです。
(武田)多面性は書きたかったところです。鬱陶しいくらいに絡んできても、実はいいやつだったり。
『メリーゴーラウンド』(1974)っていう映画があるの。白血病の男の子が死んじゃう物語。その男の子に絡んでくる女の子がいて、ずっと「やなやつだなー」って苦々しく見てたのね。男の子の病状はどんどん悪化して、最後に起きられなくなった時も、やっぱりその女の子がいつものように絡んで、もうやな感じなのよ。「この期に及んでか!」ってイライラしながら見てたわけですが、ところがその女の子が病室を出た瞬間に涙をこぼして歩くのよ。もうそこがね…! そのシーンがズキーっときて、忘れられなくなりました。あれは一つの原点だったかもしれない。
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マーカー廃盤で作家活動の危機に?!
——武田さんの画風を知る際に、画材は欠かせません。主にお使いの画材はマーカーですね。
(武田)トゥーマーカープロダクツ社のコピックを今は使っています。
しかしこれまではずっと「スピードライマーカー」というのを使っていたんです。それが廃盤になっちゃったの。
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——画材の廃盤は痛いですね…。
(武田)痛いよ〜、本当に…。それを知ったときは暗い穴が空いたような感じで…いや、ほとんど穴の中に落ちてました。ここから先、かなり迷走しましてね…。
まず廃盤になる前にメーカーに電話して、在庫を買えるだけ買わせてもらって。
あと、私は本当に友情に頼ってるんだけど、おさななじみの友達が全国の問屋に電話して、少しずつ買い集めてくれたの。文房具屋をやっている友達もいろいろな情報を流してくれた。とにかく最後まで買い貯めたんだけど、手持ちの在庫はどんどんなくなって、色も揃わなくなっています。
で、今はコピック中心に使っているんだけど……最初に困ったのは、ずっと使っていた「スピードライマーカー」は油性だったってこと! 油性だから、水性のユニポスカで線を引いたあと、マーカーで色を塗る、ということができてたの。ところがコピックは完全に油性ではなく、アルコールマーカーなんだよ〜!
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——…なんだか涙が出てきます…。
(武田)これまでと同じようには進められないから、ユニポスカで線を引いて、コピーを通したものにコピックで色付けしたりと色々工夫をしていました。試行錯誤がちょっと前まで続いていて、本当に辛かったです。
ちょうどその時、厄年とかだったらしくて、脚立から落ちて歯を折ったりもしてました。踏んだり蹴ったり。それより画材の廃盤の方がショックでしたが…。でも、こんな風にジタバタしたりシクシクしていると、友達が助けてくれて、本当に私は友情で生かされているなあと思います。
——本当に、お友達力が凄いです。
(武田)長くて深い友達が一握りいるんですよね。特に高校時代の友達は、いまでも仲がいいです。
日大鶴ヶ丘高校に音楽科と美術科があった時代があったんですね。中学の先生に教えてもらって、そこに進学しました。
美術科は1クラスのみで3年間同じメンバー。みんな個性的なんだけど、個人主義の集まりで居心地が良かったです。映画監督の塚本晋也君が同級生で、当時からしょっちゅう映画を撮っていました。クラスメイト総勢でエキストラとして出演したりしていましたね。夏休みの即興の芝居は、その塚本君のご指名で、私が脚本を書いたりもしたんですよ。ちょっとすごいでしょ。とにかく学校が楽しくて、朝5時に登校して夜の7時とか8時までデッサンしていました。DVDを貸してくれる「Sさん」も同級生。版画がうまくて、色んなことができて尊敬していました。
原画は、コピー用紙!
(武田)話が逸れちゃったけど、残り少ないスピードライマーカーを使いつつ、コピックを使っています。あと使う画材としては色鉛筆。それからパステル。このパステルも友達からもらった高価なものなので、ちょっとやそっとじゃ使いません。書き直しの可能性があるときは、塗らない(笑)。
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絵は何枚も同じシーンを描いてから選択します。「ますだくん」のときはプリミティブな絵がいいと思っていて、綺麗に描きすぎないことを意識しました。ちょっと線がウニャウニャっとなっているのとかね。
あとは表情。単純な線でも、心の動きをしっかり伝えたくて、例えばこのみほちゃんの表情は、イメージに近づけるために何枚も書きました。
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それから「ますだくん」は一度カラーコピーしたものを入稿しているんです。私よりも印刷所が大変だったと思う。コピーで版ズレしている部分はホワイトで消してるの。
——えっ! ということは、最終的な入稿原画用紙はコピー用紙になるんですか?
(武田)うん、コピー用紙です。
今はコピー機を通さない原稿もほぼ全部コピー用紙に描いています。マーカーが滲みにくいのが理由の一つ。画用紙に描くと滲んだりするから。あとは重ねた時ライトライトテーブルを使わずにラインを写すことができるから。初期にライトテーブルを使いすぎて視力を落としてしまったんです。
講演会とかで原画とか見せるじゃないですか。小学校とかだと、長テーブルとかにそのまま置くんですよね。そうすると原画を見た子供たちが「(紙が)ピラピラだ〜」って言うんです。もっと素晴らしい紙に描いていると思うんでしょうね(笑)。
——びっくりしました! 「コピー機を通す」のはどうして?
(武田)「ますだくん」を描いていた1980年代〜90年代は、渋谷にコピーセンターがあったの。今に比べて性能は段違いに低くて、温度とか色んな条件で仕上がりが左右されたんです。前日と翌日では違う感じになるのね。だから何回か同じシーンを(別条件で)コピーして、面白いのを使ってた。そのコピー紙にまた、色をのせて。コピーは色が「死ぬ」(沈静化する)ので、同じ色が二度使えてオイシイ(笑)。色の拾い方も面白かったけど、今のコピー機は優秀だから、こういうニュアンスは出ないですね。
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上を向いて歩いてる
——3つ目は「散歩」です。1日に1度は外に出ますか?
(武田)そうですね。母が生きていた頃は、富士山を見たがって、杖をついてもここ(キャロットタワー展望階)に来たがっていました。母はもういないですが、いまでも私はよくここに来ます。気持ちいいですよ。本屋にも行かずにはいられません。
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友達がこの辺りで私を見かけると、だいたい「上を向いてる」らしいんです。煮詰まって外に出ているから、考えごとをしているんでしょうね、多分。よく電柱とか、ものにぶつかります。
電柱といえば、電柱とか電線が大好き。生活がそこにある感じが好きで、町の絵を描くときは電柱なども描き込みますね。都会の下町が好きなんです。
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——「ますだくん」シリーズにも電線は書き込まれていますものね! 改めて30周年、おめでとうございます。
(武田)ありがとうございます。出版当初、児童文学作家の後藤竜二さんだけが「この本はずっと残る」「まず50万部は売れる」と言ってくれたんです。しばらくして会った時にも「まだ(50万部)行ってない?」って聞かれたから、きっと本気で思ってくれていたんだと思う。
「ますだくん」を描く前までは、確定申告の職業欄に「絵本作家」って書けなかったの。こういう職業は覚悟ができた時に、その職業になれるんでしょうね。「ますだくん」を作って、「これで食べていける」という気持ちよりは、「これだけ多くの読者が見てくれた」という気持ちで、職業欄に「絵本作家」と書けました。以来、ずっと職業欄は変わりません。私にとって「ますだくん」は特別な一冊。読者の方々からいただいたお手紙が、私を絵本作家にしてくれました。
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30年間読み継がれています。
(インタビュー/柿本礼子)
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★【告知】「となりのせきのますだくん」30周年キャンペーン!★
絵本刊行30周年を記念した特別キャンペーンを、3月末よりポプラ社公式Twitterにて開催予定! クイズに答えると「ますだくんグッズ」が当たるかも…!? 是非詳細を楽しみにお待ちください✨
/#となりのせきのホニャララくん キャンペーン🦖
— ポプラ社 (@poplarsha) March 28, 2022
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こどものころ、図書室や本屋さんで一度は見た覚えがあるかいじゅうみたいな男の子。
なんて名前だったっけ…?
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