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理想という名のウソを暴け。『NINE LIES ABOUT WORK 仕事に関する9つの嘘』読書感想

(A)はじめに:立ち止まって、常識を疑う。

物事には、そのようになっている理由というのが、大抵存在する。そして、その物事が大きく、長く、沢山存在するものであればあるほど、それらがそのようになっている理由というのも信ぴょう性が増してくる。

今回は、今日の組織や働き方に関する9つの常識について、お茶を濁すことなく、真正面から向き合いなおしている本を紹介する。世間の大半はその常識を信じ、その上で新たな理論の提唱に躍起になっている中なので、かなり耳の痛い話も多いが、現実世界で実際に働いている私たちにこそ、これらの常識を疑ってかかることが重要だ。

(B)著者について/あらすじ

筆者はマーカス・バッキンガムさんとアシュリー・グッドールさん。マーカスさんはリーダーやマネージャーの調査を専門としており、『さあ、才能(じぶん)に目覚めよう』や『最高のリーダー、マネジャーがいつも考えているたったひとつのこと』などの著書がある。アシェリーさんはデロイトやシスコで人材育成に携わり、リーダーやチームの育成について日々実践を積み重ねている。

本書は、マーカスさんとアシュリーさんが、職場で定着している「ホント」の考えや慣行の多くが、働く人々の助けになっていないどころか、逆に苦しめていることに疑問を持ったところからスタートしている。そしてその原因として、この「ホント」が実は一部の事例にのみ当てはまることにも関わらず、あたかも普遍的な真実であるかのように広まったことだと指摘している。結果として、「ホント」であると信じられている「ウソ」が横行し、働く人々を苦しめているのだ、と。加えて、これらの「ウソ」は、組織の管理欲求を満たす上では役立っているというのだ。だから、中々「ホント」が何なのかが検証され、広まっていくことがないという。

本書で暴かれる「ウソ」は以下の9つである。
ウソ#1 「どの会社」で働くかが大事
ウソ#2 「最高の計画」があれば勝てる
ウソ#3 最高の企業は「目標」を連鎖させる
ウソ#4 最高の人材は「オールラウンダー」である
ウソ#5 人は「フィードバック」を求めている
ウソ#6 人は「他人」を正しく評価できる
ウソ#7 人には「ポテンシャル」がある
ウソ#8 「ワークライフバランス」が何より大切だ
ウソ#9 「リーダーシップ」というものがある

あなたが気になる、信じていた「ウソ」はあっただろうか?

(C)感想:現実に即して考える。

上記の9つの「ウソ」は、どれももっともらしく聞こえるし、多くの組織で重要だと位置付けられている。ワークライフバランスやリーダーシップといったキーワードは、ビジネスパーソンが尊ぶべき考え方やスキルだとして、その在り方を説く書籍や記事は数多くあふれている。本書では、それらが全て「ウソ」だと言い切っているのだから驚きだ。

本書の考え方の軸として、「現実に即して考える」ということが据えられていると感じる。例えばウソ#1についていえば、企業の求人でいかにも魅力的に紹介されている内容(オフィスの立地や福利厚生、働き方に関する諸制度)が、実際に働く上での構成要素のほんの一部で、しかも大抵の人が干渉できない内容であることがほとんどである。働く人々の働き甲斐は、その企業のスペックではなく、個人の動機付けやチームへの貢献度が重要であることが述べられる。ウソ#6や#7の評価やポテンシャルについても、働く人の評価やポテンシャルについて、評価しようにも明確な尺度がないことは、冷静に考えればわかることだが、指摘されるまでは常識として意識下に潜んでしまっている。本書はこのように、通説として使われてきたウソに対して、「言われてみれば確かに変だし、エビデンスもないよな」と現実に即して考えることを徹底している。その上で、理想像(しかも決して現実世界に降臨することはない理想像)ばかりを追い求めるのではなく、今目の前で必死に自分や家族や組織の為に働いている人々に目を向けようとしている。

特に、リーダという立場に立ち、チームメンバーの成果を最大限に発揮させることをミッションとしている人には、理想のリーダー像や部下のコントロール方法などからは関心を移し、目の前にいるメンバーを理解することに注力を注いでいただきたい。

(D)ためになる一節

「本書はあなたのために書かれた」

この本で語られるのは、机上の空論ではない。実践知だ。

「「みんな一緒」という普遍性を感じさせると同時に、…(中略)一人一人の特別なところを…」

人というのは、大抵にしてわがままで一貫性がない。それを理解せずに一極を押し付けてもなにも意味がない。

「企業が目標をこれほど重視するのは、促進・追跡・評価に役立つからであり…」

我々が「ホント」と信じ、必死に詰め込んできたことの大抵は、企業に役立つのであって、我々には役立たない。

「失敗そのものからは、成功については何も学べない」

失敗を恐れずに挑戦した結果、失敗もあるが小さな成功もあった、が正しい。失敗はただの失敗で、次に改善する以外に役には立たない。

「まずは、「とっておきのアドバイスを与えたい」という、強力な誘惑に打ち勝とう」

あなたが与えようとしているアドバイスは、あなたにとって有用だが、他に人にもそうとは限らない。

「人となり×実績=モメンタム」

見えない力を測るには、これまでと違う公式をあてはめなければいけない。
ポテンシャルを測ろうものなら、今の偉大な成功者は大体落第点だ。

(E)まとめ:理想という名のウソを暴け。

多くの企業では、その規模や分野に関係なく、9つのウソが蔓延している。それらは企業にとって扱いやすいので、働く人々が立ち向かうことは容易ではない。しかし、特にリーダーとして職場の仲間を評価しなければいけない立場の人は特に、これまでの通説が現実世界にとってどれほど機能しているのか考え直してみてほしい。

あなたは理論の世界に生きてはおらず、目の前の仲間と成果を上げることを求められているのだから。


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