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真の意味での人材活用。『新 コーチングが人を活かす』読書感想

(A)はじめに:"teach"ではなく"coach"

人からよく「教えるのが上手だね」と言われる。確かに普段から人に何かを「教える」ときは、「相手が理解したときに初めて、自分が『教える』という行為をした」と考えるようにはしている。「教える」とは、その行為をする人だけでは成立しないということだ。とはいえ、それを意識しているくらいで、特段特別なことはしていないし、周りで「教える」のが上手だと思う人も下手だと思う人も取り立てて思いつかないので、自分が「教える」のが上手なのかは分からない。意識したこともない。

人を活かすという点で、"teach"ではなく"coach"のアプローチを行う「コーチング」には以前から興味があった。以前から読みたいリストには入れていた、コーチング入門編の最適解といわれる本書を、読書の秋企画もきっかけに、読んでみた。

(B)著者について/あらすじ

著者は鈴木 義幸(すずき よしゆき)さん。
慶應義塾大学文学部で、人間関係学科社会学を専攻されていた。株式会社マッキャンエリクソン博報堂(現株式会社マッキャンエリクソン)に勤務後、渡米し、ミドルテネシー州立大学大学院臨床心理学専攻修士課程を修了。
帰国後、有限会社コーチ・トゥエンティワン(のち株式会社化)の設立に携わる。法人事業部の分社化による株式会社コーチ・エィ設立と同時に、取締役副社長に就任。現在では代表取締役 社長執行役員に就任されている。
学生の頃から人間関係と臨床心理学について勉強されていた鈴木さんは、対話によって目標達成のサポートをするコーチングの概念を日本に持ちこんだ立役者だ。

本書は、2000年に刊行された、コーチングの入門編の改訂版である。刊行当初からコーチングの必要性は叫ばれていたが、近年その風潮は更に加速している。「簡単に正解を見つけることのできない課題の増加」、「多様性の拡大」、「イノベーションの必要性」がその主な要因だ。
一方で、コーチングがこの20年間で普及する中で、一部誤解を招いている部分もあるという。スポーツのコーチから連想されるように、する側とされる側に一種の上下関係が生じてしまっている場合があるというのだ。また、コーチングは1on1のコミュニケーションだが、影響の輪をチームや組織に波及させることもできるという。上記の誤解を解きつつ、組織におけるコーチングの活用法や、20年間のアップデートを目的に、大幅な改定が行われたのが本書というわけだ。

(C)感想:対話の新たな選択肢

「コーチング」は、コーチが持っている答えまで、コーチされる側を連れ出す行為ではない。それでは、答えを持っているコーチと、そこまで導かれる側の間に上下関係が生まれてしまう。(これは、役職などといった上下関係ではなく、もう少し精神的なものだと思う)このような関係は、そちらかといえば「ティーチング」に近いのではないか。先生と生徒、といった感じだ。
「コーチング」の依って立つ大前提は、問いを2人の間において、一緒に探索し、発見をうながすという事。つまり2人の対話が最も大事なのだ。「コーチング」は「相談」とも異なるので、対話の末の落としどころは存在しない。コーチを受ける側に答えを引き出す力があると絶対的に信頼して、限りなく問いを突き詰めていく行為なのだ。最早、禅問答にも近い世界を感じる。

そういった前提の上に、「コーチング」の様々なスキルが紹介されていく。「コーチング」はコミュニケーションの手法なので、円滑に進めるためのスキルが存在するのだ。目標の達成≒主体的な行動を目指すために、まずは効果的な対話を始めるための準備を行う。「コーチング」は1on1の対話なので、双方の信頼が不可欠になる。信頼の上で、答えに辿り着くための質問・間の取り方・リアクションの取り方など、様々である。主要な対話部分はもちろんの事、双方の意識も持ち方、ビジョンやイメージによってもその効果が変わってくるというから驚きだ。

「コーチング」をチームや組織に波及させるには、正しく、そして気軽な1on1が生じる土壌を作ることから始める必要がある。多様性を容認し、心理的安全性を作り出す。そういった風土の中では、「コーチング」が波のように派生していくのだ。そして、一人一人がコーチとなり、お互いを高い次元へと上げることが出来る。

「コーチング」は人を活かすコミュニケーションツールだが、何も仕事の場だけが活躍の場ではない。夫婦、親子、友人などなど、プライベートな場面でも活用することが出来る。多様な価値観を持つ共同体や、答えのない課題にぶつかる瞬間は、何も仕事上だけには限らない。不確定で不透明な時代の、コミュニケーションの選択肢として、コーチングは必ず役に立つ。

(D)ためになる一節

「コーチングの本質は"未来を作り出す主体的な人材を創る"ことにあります」

コーチングは目の前の人の主体性に働きかけるアプローチだ。

「自分でとりにいった情報のほうが、実際に血となり…」

何でも答えを与えてしまっても、その定着率は決して良いとは言えないだろう。答えを探す旅に出させるのも必要なことだ。

「提案は"イエスというか""ノーというか"の選択を、相手に完全に…」

当たり前のことではあるが、受けるも良し、断るもよし、というのが本来の提案である。これを勘違いして、強制的な提案をしてしまっている人が、少なからずいるのだ。

(E)まとめ:真の意味での人材活用。

「コーチング」とは、一人一人が主体的に行動するためのコミュニケーションツールである。考えることをやめてしまったり、逆に考えてばかりで行動が伴わないなど、迷える人々を活かす画期的なコミュニケーションだと感じた。コーチすることは、すなわちコーチをされること。まずは本書で学んだスキルを活かして、身の周りの人と「コーチング」の世界を堪能してほしい。



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