#13 手(ホセ・ワタナベ)/ペルー風餃子エンパナーダ
このあいだ、ペルーのオリーブオイルを買った。
それをきっかけに「そういえば、ペルーの詩人って?」と調べたら、
ホセ・ワタナベ(1945-2007)がヒット。
お、同じ名字やん。(私:ワタナベメグミ)
日本から労働者として来た父と、ペルー人の母のもとに生まれた彼は、
高く評価されている現代詩人であり、逝去後は「ホセ・ワタナベ文学賞」や「ホセ・ワタナベ図書館」ができたらしい。
ワタナベ族の一員としては、なぜかちょっとうれしい。へへ。
詩を読んでみる
勝手に縁を感じ、ホセ・ワタナベ詩集をぽちっと買ってみた。
ぱらぱらと読んで、「手」という詩に目が止まる。
「手」 ホセ・ワタナベ
ぼくの父ははるか遠くからやってきた
海をわたり、
歩き
道を作った
そしてこの両手だけをぼくに残し
艶をなくした柔らかすぎる二つの果物のような
自分の手を土に埋めた。
「手」より一部抜粋(細野豊・星野由美 編・訳)
『新・世界現代詩文庫14 ペルー日系詩人ホセ・ワタナベ詩集』2016
子どもを残す、とはよく言うが「両手」が残されたというのは斬新だった。
ペルーやブラジルに労働者として渡った日本人たち。
彼らにとって「手」は生きる上で何よりの頼りだっただろう。
↑ペルーのサトウキビ耕地で働く日本人(ペルー日本人移住史料館所蔵)
働く手。家をたてる手。現地のものでなんとかご飯を作る手。
土を耕す手。家族を慈しむ手。母国の字を書く手。
この「手」で、粉ものを作るぞ
しみじみ、手はえらい。手は働きものだ。
手は、粉から生地を練り上げ、パンや麺を生み出す。
この詩を読んで、がぜん粉を練り上げたくなって(※個人の感想です)
ペルー風餃子エンパナーダを作ることにした。(こちらを参考)
材料
【具】
・豚ひき肉 200gくらい
・赤たまねぎ 1/2個
・ゆで玉子 2個
・オリーブの実 5〜6粒くらい
・クミンシード 適量(大さじ1くらい)
・ガラムマサラ 適量(小さじ1くらい)←カレー粉でもOK
・(包む時)ミックスチーズ 好きなだけ
・オリーブオイル、塩 適量
【皮】
・小麦粉 250g
・玉子 2個
・バター 50g
・塩、砂糖 各小さじ1/2
・ぬるま湯 少々(50ccくらい)
・仕上げの卵液 卵1個
作りかた
①下準備
赤玉ねぎをみじん切りにする。オリーブオイルの実を荒く刻む。
固めのゆで玉子を作り、荒く刻む。バターは室温にもどす。
②具を作る。
オリーブオイルを熱し、クミンシードを投入。
ぷわ〜っと香りが立ったら赤玉ねぎを炒める。
ひき肉を投入して色が変わったらゆで卵、オリーブの実を加える。塩とお好みでガラムマサラ(orカレー粉)を加える。粗熱をとる。
③皮を作る。
小麦粉、バター、卵、塩、砂糖を投入してまぜる。ぬるま湯をすこしずつ加えて耳たぶくらいの柔らかさまで錬る。打ち粉をして5ミリくらいの薄さに伸ばし、グラスなどで丸く抜く。
↓料理の工程の参考にはならんが、こんなテキトーなんだな、と元気がでる(?)動画を作りました。B型です。
動画ではお茶碗を使ったら抜けづらく、開き直ってひきちぎってる笑 丸ければいいのよ。包むしね。
④包む。
具をはさんでチーズをのせて半分に折りたたみ、親指で縁を作る(ちょっと水をつけるとよい)or半分にしてフォークで型をつけながらとじていく。
オーブンを余熱(200℃)
親指と人差し指でつまんでギュッギュと巻き込みながらとじていきます。
溶き卵を塗る。刷毛があればいいけど、ないので指で塗りました。
⑤焼く。
「ペルー?200℃くらいかな〜!!」みたいなノリで焼いたけど、たぶん190℃に下げて40分くらいがよいです。(2回目はちゃんと計測)
※ガスオーブンだとー10℃。
実食。
うまぁぁーーい!ビールにあうー🍺
粉からこういうものができるっていうのもしみじみおもしろいなー。
生ハム+赤たまねぎのクミン炒めもはさんだら
これまた、ハムの脂がじわっとしみてておいしかった。
餃子の皮でも、なんちゃってエンパナーダはできそう。
ひき肉を生地でくるんだらだいたいおいしいと思うんよね。
餃子は中国だけじゃなくてロシアやモンゴルにもあるし、
ミートパイとかラヴィオリ(肉詰めパスタ)もそうかな。
国がちがっても、粉をこねて、茹でたり焼いたりして食べてきた人類。
やっぱ、手は偉大だ。
移民と、ホセ・ワタナベの父に想いをはせる。
この記事を書きながら、いつか習ったこのポスターをうっすら思い出した。
大正〜昭和初期に「さあ一家でブラジルへ!稼げるで〜!」みたいな政策があって、いざ行ってみれば現実はあまりに過酷だった、という史実。
ペルーはよりひどかったらしく、耕地を逃げ、アンデス山脈をこえて他国に逃げる人もいたとか。ひょえぇ・・・(参考)
おそらく、詩人の父もまた農業従事者として渡ってきたと思われるが、息子には「両親から強制された結婚を逃れてメキシコに来て、スペイン語を学んで観光としてペルーに来た」と話していたらしい。
それについて、詩人は曖昧なままでよい、「すべての移住者は自分自身の過去を創作する権利があると思う」とインタビューで話している。
やさしい人だな・・・。ズンと来るやさしさだ。
わたしだったら、真実を追求するとか、「いやいやちがうやーん」みたいなリアクションとっちゃう気がする。たぶんインタビューをした記者も、そんな答えは予期していなかっただろう。
冒頭に引いた詩のつづき、父と似た手をもつ詩人は、父をこう歌う。
彼はどんな土地からのどんな風をも捕らえる手を持っていたのだから
父・春水は、子どもたちに俳句の精神、そして喜怒哀楽を表に出さないように教えていたらしい(編訳者あとがきより)。
そうした厳しい静けさを持ちながら、見知らぬ土地でも風をとらえるやわらかさを持っていた父であったようだ。それをとらえた息子の眼差し。
詩のなかで父をとらえたことば、インタビューへの答えに、彼の深いやさしさがにじみ出ている。
余談。
わたしの手は、母の手にそっくり。爪の形まで。
わたしの母の手は、誰に似た手だろうか。その母の母は・・・?
そういえば、祖母の家は造り酒屋だったけど、
戦争で焼けてしまって再建もできず、バラバラになったらしい。
(祖母の口からは一言も聞いたことがない)
もちろん、移民の苦労や悲哀は想像に絶するけど、
国内にいたたくさんの家族も、それぞれ苦労をしながら、
それでも手や足をフル動員して立ち上がってきたんだろうなぁ。
おかげさまで、ありがとさんです。
まぁとにかく、エンパナーダおいしいよ。適当でもおいしくできる。
ぜひ粉から作ってみてください。
作者とおすすめの本
■作者についての私的解説
ホセ・ワタナベ ペルー生まれ。1945-2007年。
1945年、岡山からの移住者である渡辺春水とペルー人の母パウラ・バラス・ソトの間に生まれる。24歳の時に若手詩人コンクール最優秀賞受賞、翌年『家族のアルバム』を出版。俳句的な感性や、武士道、禅の影響が指摘されている。北斎の春画についての詩も、とてもよかった(語彙の死)。
ペルーにあるホセ・ワタナベ図書館、カラフルでかわいいね〜。
■おすすめの本
詩集刊行まで15年かかったそうです・・・!ひょえぇ・・・(二度目)。
おつかれさまです!
■ペルーのオリーブオイルについて