第10回毎月短歌（外村ぽこ選）

こんにちわ、あるいはこんばんわ！ぽこです！
毎月のように選者をさせていただいている毎月短歌の第10回の選評です！
今回はなんと1000首以上も応募があった中から特に好きだった歌を選ばせていただきました！それでは行きましょう！

テーマ詠「性愛」

グッドぽこ賞（三席）

コンビニでコンドームと肉まん買って同じ袋に入れちゃうのかよ／汐留ライス

まずグッドぽこ賞はこちらのお歌です。この歌の好きだなと思ったところは主体の初心さですね。語り口調から主体は男性と読んだのですが、意中のお相手とこれから…とソワソワしてるときに見えてしまった一面。別に何も悪いことはないのですが何となく…手慣れている感じしません？相手が自分との性行為にさほど特別感を持っていないような感覚になります。恐らく主体はほぼ経験がなく、コンビニでコンドームを買うことも勇気がいるんじゃないでしょうか。主体が経験豊富なお相手とどのような夜を過ごすのか…。頑張れ！って言いたくなるような一首です。

ナイスぽこ賞（二席）

「夜明けまで繋がっていて」熱っぽいスマートフォンが耳たぶ燃やす／梅雨すみれ

続いてナイスぽこ賞はこちらのお歌です。なんと言っても初句からの台詞が良いですね。場面としては眠れない夜を通話して過ごす二人なのでしょうがどのような関係性なのか気になります。個人的には主体の片想いかな？とか、ちょっと思わせぶりな態度を取ってくる相手なのかな？とか色々な読みができますが、相手から不意にこんな官能的な台詞を言われたらそりゃ耳たぶも熱くなりますよ。『熱っぽいスマートフォン』からかなりの長電話かと思いますが、この夜はまだまだ続きそうですね。性愛というテーマでこのピュアさが見れたのも良かった一首です。

ベストぽこ賞（一席）

ものすごい速さでドラッグストアから帰って来たから笑い合ったね／インアン

最後のベストぽこ賞はこちらのお歌です。この歌はもう良すぎて…特に言うことがないですね。二人で過ごす夜、ムードも高まってきてもう前戯ぐらいは済ましたかもしれません。いざ…というタイミングで気づくコンドームの不在。そこで「ダッシュで買ってくる！」とか言って相手が出ていったのでしょう。そこで険悪なムードにならないのも、じゃあコンドーム無しでいいかとならないのも好感度が持てますし、そんなにヤりたいのっていう主体が相手に抱く愛おしさも感じられます。リアリティのある景でありながら下品さはなく微笑ましさすら感じる一首です。

性愛というテーマは難易度が高かったかなと思いますがみなさん上手でびっくりしました！
それでは次は自由詠です！こちらは『短歌の日』という企画とコラボしていたため600首ほどの歌が寄せられておりました！その中から好きだった6首を紹介します！

自由詠

グッドぽこ賞（三席）①

おみくじのようにあなたと引き抜けばどっちも春のいちごポッキー／哲々

グッドぽこ賞一首目はこちらのお歌です。なんと言っても景の美しさが印象的ですね。主体とあなたがいちごポッキーを分け合っている場面ですが、それをおみくじに喩えたのに脱帽です。実際のおみくじはといえば大吉とか凶とか必ずしも良いことが書かれているわけではないのですが、実際いちごポッキーからはいちごポッキーしか出てこないように、この二人が引き抜くポッキーは幸せだけで満ちているようです。二人の関係性は想像するしかないですが、『春の』という表現やいちごポッキーの甘酸っぱさも相まって初々しい恋の始まりを思わせてくれる一首です。

グッドぽこ賞（三席）②

手を合わす時間が少しずつ長くなる子を待って鳥居を抜ける／中村マコト

グッドぽこ賞二首目はこちらのお歌です。子供の成長を感じる瞬間というは人によって様々だと思いますがこの歌の着眼点が好きです。小さい頃は神社で手を合わせる意味も分からず、ただ親の真似をしていたんじゃないでしょうか。それが成長するにつれてちゃんと子供の中でお願い事や神様への感謝が芽生えていく。恐らく子供が神様へ伝えたことは親に明かされないでしょう。それが寂しくもあり嬉しくもある、そういった親の心情が表現されています。恐らく実景で詠まれたのだと思いますが、これは実景じゃないと詠めないよなと思う一首です。

グッドぽこ賞（三席）③

悲しいことなんにもないな目を閉じればなんか泣きたい日のフェイクファー／星谷麦

グッドぽこ賞三首目はこちらのお歌です。この歌の持つ引力というか何となく分かる！となる感覚が好きです。主体の悲しいことが何もないというのは一見幸せそうですが、恐らく日常で心が動く瞬間がないのでしょう。虚無感というは時に悲しみよりも心を蝕みます。そんな主体が眠るときに思う「私の人生これでいいのかな」という漠然とした不安と悲しくないのに泣いていいのか戸惑う主体の生きづらさ。その感覚が見事にフェイクファーに収束されています。加えて6/7/6/9/5という音律も不安定さを助長していて上手さも感じる一首です。

ナイスぽこ賞（二席）①

ぜんぶ過去　ゲラウェイ、ゲラウェイ　もうずっと笑い死ぬまで逃げて行こうぜ／乙村藍里

ナイスぽこ賞一首目はこちらのお歌です。これはもうカッコイイ！の一言に尽きますね。『ゲラウェイ』=『get away』であり和訳で『逃げろ』だと思うのですが、初句の『ぜんぶ過去』が逃げるという行為を肯定してくれているようです。そこからのゲラウェイのリフレイン、そして『笑い死ぬまで逃げて行こうぜ』というまるで手を引っ張っていってくれるような結句に繋がる流れが素敵です。ただ生きるだけでも大変な世の中だからこそこの歌は本当にお守りのように感じます。リズム感も良く何度も繰り返し読みたくなる楽しい一首です。

ナイスぽこ賞（二席）②

自転車を漕ぐきみの背に摑まって見た春、あんなにきれいな前科／中山史花

ナイスぽこ賞二首目はこちらのお歌です。まず景として好きな人の後ろに乗って自転車の二人乗りをしている。それだけでもとても青春だなと思うし美しいなと思うのですが、それを結句で『あんなにきれいな前科』と表現しているのに射抜かれました。確かに二人乗りは違法であり、主体はそれを理解しているうえで『きれい』と表現していることで恋心が理性で抑えきれない感覚が表現されています。加えて深読みかもしれませんが前科という表現が主体の見た春が正しい恋でなかったのかもしれないという少し不穏さも醸し出していて想像の膨らむ一首です。

ベストぽこ賞（一席）

「危ない」と縫い針までもうばわれて祖母は鳴らないレコードになる／小野小乃々

ベストぽこ賞はこちらのお歌です。主体の親が祖母の身を案じて裁縫を止めさせた場面ですが、良かれと思っての行動が祖母の自由を奪ってしまったということがありありと伝わってきます。加齢によりできないことが増えていくのはきっと祖母自身が一番分かっていて、それでも昔からやってきた裁縫ぐらいはという思いを挫かれた祖母の喪失感が結句の針からレコードに転換する比喩により表現されています。また、この歌では誰も悪くないというのが一層の悲壮感を漂わせます。祖母を憐れんでも怒りをぶつける場所はない主体の歯がゆさまでも感じさせる一首です。

本当に良い歌ばっかりで6首でも全然紹介し足りなかったです…ありがたい悲鳴ですね！
最後は4月の自選です、それではどうぞ～

4月の自選

グッドぽこ賞（三席）

幸せにまたは不幸にできる手であなたのパンにもっとバターを／あひる隊長

まずグッドぽこ賞はこちらのお歌です。この歌はいろいろと考えさせられるなあという読後感に惹かれました。あなたとの関係は不明瞭ですが、主体は自分という存在があなたにとって大きな影響力を持っていることを自覚しているのでしょう。パンにバターを追加するという行為は味覚という意味では幸せですが健康という意味では不幸です。この世に完璧はなく、何を取捨していくか決断するのが人生なのかもしれません。そういった、ある種の理不尽や責任をしっかりと背負ったうえであなたと幸せになろうとする主体の姿勢がひどく眩しい一首です。

ナイスぽこ賞（二席）

しっかりとチャイルドシートに座らされ西瓜はもうすぐ浜辺へと着く／宇井モナミ

続いてナイスぽこ賞はこちらのお歌です。これはもうひたすらに景が美しいなと思いました。チャイルドシートからまさかの西瓜！チャイルドシートに西瓜を座らせるという行為だけでこれから海でスイカ割りをするワクワクを表現しているのが凄いです。また、チャイルドシートを置いている車内ということで子供が大きくなって初めて子供に海を見せるのかもしれません。子供が海を見た反応を楽しみにする親御さんの気持ちも感じることができてとても心温まります。シンプルな景ながら夏の眩しさと和やかな空気感を感じることができる一首です。

ベストぽこ賞（一席）

初めてのひとに会う朝いつもより天気予報をていねいに聞く／睡密堂（すいみつどう）

最後にベストぽこ賞はこちらのお歌です。この歌の良さを言語化するのは難しいとも感じているのですがとても惹かれました。誰かと会うときその人と初めて会うというのは人生で一度しかない。もしかしたらその一度しか会わないかもしれない。主体はそうゆう揺るがない事実を認めたうえでその出会いを全うしようとしているように感じました。今日は暑いのか、雨なのか。服装はどうしようか、早めに家を出ようか。天気予報を聞くという行為が主体の努力であり祈りのようです。主体のひたむきさに胸が打たれるのと同時に自分もこうありたいと思う一首です。

以上で第10回毎月短歌の外村ぽこによる選評を終わります！本当にありがとうございました！お時間あればXのスペースも聴いてくださいね！それではバイバイ！！

x.com