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同期が辞めたってだけの話。
「実は今日、最終出社日なんだ」
同期がいきなり自分のデスクに来て、そう言って小さな、ちょっと良さげなチョコを一つ渡してきた。自分はびっくりしたのもあるけど「そうなんだ」とだけ言った。
本当は色々聞きたいことがあったけど、何を聞いたら分からなくて「これからどうするの?」と、今思えば他に言いようがあったんじゃないかと思うことを聞いた。同期は「一旦実家に帰るつもりだよ」とだけ言って笑った。それ以上は何も聞けなかった。
自分は同期から貰ったチョコにお礼を述べて咄嗟に「またどこかで」と言った。言ってからもう二度と会わないだろうな、と思った。
自分が入った会社はそこそこ大きい会社だから、単純な同期という枠組みだけで言えばたくさんいる。けど、コロナ禍ということで同期間の繋がりが薄いこともあり、組織もどんどん枝分かれして、細分化して、本当に同期と言えるような人は両手に収まるぐらいしかいなかった。
辞めた同期はそのうちの一人だったけど、特別仲が良いわけでもなく、会ったら話すぐらいの関係で、多分他の同期ともそんな距離感の人で、みんな辞めることを最終出社日まで知らなかったようだった。
別に今の時代、転職なんて普通で、会社の先輩たちも残っている同期はほとんどいないみたいな話を飲みの場でしていた。人と人との距離感が薄いのも現代の特徴みたいなところがあるし、こんな別れはこれからもあるんじゃないかなって思った。
家に帰ってから、貰ったチョコを見て、なんとなくその日は食べる気分にならなくて、冷蔵庫から買いだめしているお気に入りのチョコを取り出して食べた。
次の日、同期のデスクを見たら綺麗に、何一つ物が無くなっていて、まるで初めからそうだったみたいで、本当に辞めたんだなとだけ思って仕事に入った。
その日は家に帰ってから、貰ったチョコを食べた。美味しいけど、お気に入りのチョコほどではないなと思って、食べ終わったごみを捨てて、もう一度だけ、もう二度と会えないのか、と思った。
本当にそれだけの話。
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