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双極性障害とつきあう⑥
「軽躁状態だったんだと思います。」
女性医師は、私の目を見てそう告げた。
そうか。
Ⅱ型だったから、ネットでみてもしっくりこなかったのか。
Ⅰ型の主症状の表現はどれも極端で、
そこまでではないよな…と思うものが多い。
それもそのはずで、
躁状態を大波とするなら、軽躁状態は小波だ。
激しい症状が出ない分、本人も周囲もそれほど困らず、見逃しやすいのだ。
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それでも、
主治医は、私を見つけてくれた。
私は、私を見つけられた。
病名が発覚し、治療を開始した私は、
今度は完全にハイになっていた。
セカンドオピニオンを受けようとした時点から、もうそうだったのかもしれない。
診断を受けてすぐ、家族に話したのも。
「正しい治療ができる!治るはずだ!」
意気揚々と、翌日から職場に復帰した。
どうしても続けたかった仕事ができる喜びでいっぱいだった。
しかし、長くは続かなかった。
躁のつぎは、うつがくる。
3日目の朝、起き上がれなくなった。
ベッドに身体が沈み込んでいくような感覚で、手を挙げることすら難しい。
自分で欠勤の連絡をすることすら、できない。
再び 希死念慮が襲ってくる。
拭っても拭っても消えない。
しにたいきもち。
でも身体は動かない。
次から次へと気持ちは押し寄せるのに、行動を起こすことができない。
涙も止まらない。
誰かたすけてほしい。
母の働く地元の病院には、
毎週決まった曜日に 都内から精神科医がやってくる。
その日は たまたま当該日。
すがる思いで母に電話する。
仕事へ行けなかったこと。
辛くて身の置き所がないこと。
以前のように安定剤を大量に飲んでしまえば楽になるのはわかっているけれど、それが正しい判断でないことも理解していること。
どうしたらいいかわからない。
誰でもいいから助けてほしい。
そう、震える声で訴えると。
相談してみるから待っててと言ってくれた。
しばらくして、折り返し架電があった。
母『ねえ、ぽこが去年にかかっていたクリニックって、○○クリニック?』
私「うん。K先生にかかってた。」
母『今こっちに来てくれている先生、K先生なの!』
心底驚いた。
出来すぎた偶然だと思った。
初めてメンタルクリニックを受診した私に、
『戻るために、休むんですよ。』といってくれた先生。
その人が、母の職場にいて、私のことを覚えてくれていた。
それだけで、ほんの少し、心が軽くなった。
知っている先生に相談できるのは心強かった。
電話口が代わり、あのやさしい声が耳に届く。
経過は母が伝えてくれていて、
私は いま辛いと思っていること、
どうしたらよいのかを聞いた。
●安定剤を大量に飲むことは勧められないけれど、少量飲む分には問題ないからまず1錠飲んでみて。
●いまの主治医に最短で受診できないか確認を。
●僕も一度会って話したいからよかったら受診してください。
そう助言してくれた。
当たり前のことのようだが、こういう当たり前なことが思いつかなかった。
信頼できる人からの言葉はよく響く。
先生にも、母にも、感謝しかなかった。
翌日、早速主治医のもとへ行った。
不思議と、前日のような強いうつ症状はなかった。
経過を伝えると、
炭酸リチウムの副作用かもしれないけど、だんだん落ち着くから心配しなくて良いこと。
辛いときは我慢せず安定剤を1錠飲んでみるように、と説明された。
また、仕事は休職することになった。
再度、自分が病気であることを自覚した。
躁状態であれば、仕事ができる。
でも、一転してうつ状態に入ると難しい。
不安定なまま半端に職場へ戻るより、
きちんとコントロールができるようになってから復帰することを選んだ。
残念で、悲しくて、辛かったけれど。
いずれ戻るために、その選択をした。
さらに翌日、K先生のもとを受診した。
電話では伝え切れなかったことが沢山あった。
経過をレポートにまとめて持参すると、
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「几帳面ですね」といってくれた。
褒められたと感じて嬉しかった。
「これをみたら、僕も双極性障害の診断をすると思いました。
今の治療を続けて良いと思いますよ。」
K先生からもお墨付きをもらえて安心した。
「主治医が変わると大変だから今の病院で治療を続けてください。でも、話をしたくなったらいつでもここに来てください。」
そうも、付け加えてくれた。
そうして、
信頼できる2人の医師から双極性障害の診断を受け、改めて治療を続ける決心をした。
K先生は、今も月に2回ほど母の病院にやってくる。
時々、私を心配して母に声を掛けてくれるようだ。
素敵な先生との出会いは治療を左右する。
不思議なご縁と、K先生に感謝を込めて。
今日は、ここまで。
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~参考文献~
これだけは知っておきたい双極性障害 躁・うつに早めに気づき再発を防ぐ!ココロの健康シリーズ 発行人:佐々木 幹夫 監修:加藤 忠史 発行所:株式会社 翔泳社
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