ぽろたにん

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霜花——迷迭香 4

雨か。 確かにここ一週間ほど降っていなかった。轟轟と叩きつけられた雨粒が跳ね返って泥と一緒に喫茶店の窓を少し汚している。あまり客は入っていないが、なかなかに落ち着く。カランカランと乾いた音と共にびっしょりと濡れた霜花が入ってきた。右手には見事にプラスチックの布がなくなり、骨だけになった傘が握られていた。マスターに渡されたタオルで髪を拭きながら向かいの席に座わる。 「改めて、お久しぶりだね!八宮さん元気にしてた?」 そう言いながら彼女はマスターに出されたホットミルクにストローを

    • 霜花——迷迭香 3

       深夜1;19分。まだ絵は描けない。永遠と続く罪悪感に呑まれながらただ更新されていくツイートを貪リ、ふとやってくる現実に、身を削るようなため息をつく。過去の大きな夢は今やただの呪いとかしたのだ。  昼間。久々にあった友人は自立していた。少しの懐かしさと劣等感が入り混じったような感覚が、しばらくの間をつく。気づいていないふりをしようとも思ったが、あの頃のように彼女は気さくに話しかけてきた。今度は名前を互いに覚えたままで。そんなことを思い出し、汗疹ができた首を二回掻いた。ようやく

      • 霜花——迷迭香 2

         美術部員は三人。その中に彼女はもちろんいない。目があった瞬間少しの気まずさを覚える。確か同じクラスだった気はするが私は名前を覚えるのが得意ではない。必死に名前を思い出そうとしている間に彼女は私の隣で雲を眺めていた。パッとこちらに振り向くと、かすかにシャンプーの香りが舞う。 「あなたも生徒指導?こんな暑い休日に学校なんて最悪だよね……。ねえごめん名前なんだっけ?」 「八宮。違うよ。作品が私だけ終わってないの。あなたは確か……浅…倉…?」 ぶっ。思わず彼女が吹き出す。どうやら違

        • 霜花——迷迭香 1

           八月。まるで死体の気分だった。過去の自分が思い描いた夢にしがみついて腐敗した頭と身体を引きずっているようだ。国立の某美術大学を目指し、浪人した私は時が経つにつれて身と心を徐々に腐らせていた。その日も布を張っただけの白いキャンバスを眺めて深くため息をつき、気分転換にただブラブラと街を意味もなく歩いていた。平日のこの時間は主婦や老人がちらほら歩いているだけで、その風景に少しの罪悪感を覚える。太陽が頭のてっぺんをじわじわと焼く中、少ない日陰は日傘をさしたご婦人たちで埋め尽くされて