霜花——迷迭香 3
深夜1;19分。まだ絵は描けない。永遠と続く罪悪感に呑まれながらただ更新されていくツイートを貪リ、ふとやってくる現実に、身を削るようなため息をつく。過去の大きな夢は今やただの呪いとかしたのだ。
昼間。久々にあった友人は自立していた。少しの懐かしさと劣等感が入り混じったような感覚が、しばらくの間をつく。気づいていないふりをしようとも思ったが、あの頃のように彼女は気さくに話しかけてきた。今度は名前を互いに覚えたままで。そんなことを思い出し、汗疹ができた首を二回掻いた。ようやくスマホを閉じ、無地のキャンバスの前で二次創作をかく。どれもただの自己肯定感を上げるためだけのものであってこれは絵ではない。描いても描いても絵を「描く」という行為が満たされることはなく、得られるのは一瞬の数字だけだ。時々飛んでくる優しい言葉にただ皮を被った、自分ではない何かのアイコンが絵文字を使って感謝を述べる。4の数字がベルマークにつく。自分の画力に合わない無駄に多いフォロワーの数を見ては嫌気がさし、タイムラインで自分が社会の一環から外れていることを理解する。こうして削がれた気力をまた数字で一時的に回復させては、気絶する前に今日も絵が描けていないことに絶望するのだ。頭に敷いた人形の間から見えるサイドテーブルにはスケッチブックが開かれ、固形絵の具が綺麗に並べられている。筆を洗うために汲んできた水をピチャピチャと舐める猫の音を聞きながら無理やり目を閉じた。ふと昼間の彼女の顔が浮かぶ。見窄らしい今の自分を見て霜花は何を思っただろうか。かつて。あの夏に語った姿を思い出す。もう一度首を描くとスマホが震えた。通知は霜花からだった。涼しい夜のはずなのに少しの汗が滲む。緑のアイコンについた赤い「1」という数字が深夜2時の暗い部屋を煌々と照らしている。