霜花——迷迭香 1
八月。まるで死体の気分だった。過去の自分が思い描いた夢にしがみついて腐敗した頭と身体を引きずっているようだ。国立の某美術大学を目指し、浪人した私は時が経つにつれて身と心を徐々に腐らせていた。その日も布を張っただけの白いキャンバスを眺めて深くため息をつき、気分転換にただブラブラと街を意味もなく歩いていた。平日のこの時間は主婦や老人がちらほら歩いているだけで、その風景に少しの罪悪感を覚える。太陽が頭のてっぺんをじわじわと焼く中、少ない日陰は日傘をさしたご婦人たちで埋め尽くされていた。涼しい店内に惹かれた私はそこで彼女と偶然再会した。目があった瞬間。ちょうど一年前のこの時期のことを鮮明に思い出す。
高校三年。私は最後のコンペに出す絵が描けないでいた。絵の具が乾くまでの時間を考えると残された期限はあと一週間だというのに、自分と同じ大きさのキャンバスは油の染みすら付いていない。受験勉強や志望大学が決まってないことを思うと尚更筆が進まなかったのだ。一人夏休みの美術室で窓からゆっくりとすぎていく雲を眺めては、三分おきに出てくる深いため息と、迫る期限に押し潰されそうになっていた。
——ガラガラ
校則より五センチは短いスカートをパタパタさせながら入ってきた彼女は涼しそうに両手を広げ深呼吸した。向かいの建物から反射した八月の日差しが薄暗い美術室を照らす。長くも短い彼女との出会いの始まりである。