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再会 12年ぶりのおやじ

先日、12年ぶりにおやじに会った。

そう、「おやじ」とは、わたしの父親である。

私は11才から片親で育ち、たまにおやじに会っていて、高校生くらいからは母親抜きで自分自身で連絡を取り、会っていた。それが、19才のある日に

母親から「もう、会わないで。」

と言われてから会っていなかった。それから12年。おやじは生きているのだろうか。【会いたい】という気持ちが、ずっと募っていた。

だが、もう連絡先も分からないし、どうしているのかなどの情報も一切不明。それに一番ひっかかっているところ。母親の「もう会わないで。」私は母親に一生懸命育ててもらったのに、その義理をやぶっていいのか。

突破口をくれたのは

「むぎあじは、もう大人だし、それはむぎあじの自由だと思うんだよね。」夫が言った。

はじめの1年ほどは、夫に何度言われても、わたしは「そう簡単にはいかない。いろいろな問題があるし・・・」と、うしろむきだった。何度も反芻した。

でも、次第に会いたい気持ちが強くなり、前に住んでいたところにいるか分からないけど会いに行こうと思ってきていた。

違う問題も。

12年も会っていないわけで、おやじは今、おそらく60歳。こわい。もしかしたら、もうこの世にはいないかもしれない。この世にいたとしても、見た目もだいぶ老いているだろう。わたしが描いているキラキラしたおやじは、もういないかもしれない。

夫から「兄弟にも聞いてみたら?」

そう、うちの兄弟は仲がいいとは言い難い。しかし、連絡を取って聞いてみたら、あっさり連絡先を教えてくれた。

ビクビクしながら、おやじにメールを送る。スマホの画面にメールが来ているかを何度もチェックしては、一喜一憂。落ち着かなかった。返事を待つわたしのこころは、初恋の彼のメールを待ちわびる高校生のようだった。

スマホの画面に、ようやく、おやじからのメールがはいった。

なんとか、生きていた。

わたしたちは、2日後会う約束をした。

2月某日、ファミレスに15:00待ち合わせ。

待ち合わせ場所で、おやじを待つわたしは死ぬほど緊張していた。わたしの方がだいぶ早かったみたいで、こっちに向かってくるひと、来るひとを見ては「あれか?おやじ。やっぱ老けたな~!!そりゃそっかぁ~~~」「いやいや、おやじちゃうやーん!」と、ひとりでおやじっぽい人をみつけては、納得したり、自分にツッコミを入れていた。

メールが入り、本物が目の前に現れた。

おやじだ。

おやじは、皴の数が増え、少しやせ細り、数少ない白髪がやわらかい風にふわりふわり舞っていた。着ているものは、意外ときれいで安心した。

おやじは、おやじになっていて、昔のおやじではなかった。おやじもおやじなりに12年の月日を経たのだろう。

ファミレスに入り、上着を脱ぐと、おやじはニューヨーク・ヤンキースの古着を着ていた。その更に中に着ているのはバイト先の制服である。おやじらしい。
わたしは、お金に気を遣い、ドリンクバーを頼もうとしたが、おやじはお酒を飲むという。やはり、お酒が入らないと話が進まないのか、お酒で乾杯。

おやじに話したい事がたくさんあった。してあげたいこともたくさんある。多少の近況報告を終え、おやじが 自身が倒れたことを話し始めた。

大動脈乖離。

1年前に、解離性大動脈乖離で倒れて運ばれて、緊急手術、2週間ほど集中治療室にはいり、1ヶ月ほどして退院したらしい。解離性大動脈乖離は即死が高い。私の祖母も即死だった。1年経過観察したからとりあえずは大丈夫だそう。さすが、不死身なおやじだ。それから、おやじは大好きなたばこをやめて、シェフ歴40年の腕を振るい、食生活改善したらしい。

でも、あいかわらず、ギャンブルは好きだそう。

映画は1年で50本ほど見ていて、気に入ったシーンは、ガラケーで限られた秒数を動画で撮って何度も見ているみたい。わたしにも見せてくれた。珍しく父親らしく、『「アジョシ」は見た方がいい!』と諭す。気に入ったDVDは、何回も観る。

最近、ネットでの映画配信が主流になり、DVDレンタル店の閉店が相次いでいる。おやじはガラケーだし、wi-fi環境なんてもってのほか。近くのレンタル店がなくなったことで、おやじは電車で何駅も越境してまで借りに行っているという。それでも、底なしに明るく語るおやじ。

アルバイトをしているらしいが、時間があるとパチスロに行ってしまうのでパチスロに行かないように掛け持ちでアルバイトをはじめたという。本人いわく、新しいことへのチャレンジとカッコつけていたが、そのおかげでパチスロに行く回数は減ったらしい。

頼んだ酒は減っていて、わたしが頼んだツマミのポテトフライは今のおやじの体にはよくない。全部わたしが食べて、身体に支障がないツマミを頼んであげた。

おやじも、もう長くない。でも、底抜けに明るいおやじのエピソードは私の自慢のおやじであった。まだまだ、底抜けに明るいおやじのエピソードはたくさんある。

わたしは、おやじに夫の話をした。出身地と得意なスポーツを答えただけでおやじは、「俺と話が合いそうだなぁ!!」と勝手に意気投合。わたしの夫と会いたがっていて、夫との食事会をセッティングしてくれとお願いされた。

まだまだ、話は尽きなかったが、わたしはあえていい時間で切り上げた。

目が悪いのに、メガネをつけないでたまに電信柱にぶつかるおやじ。

無理なおやじギャグを言うのが減ったおやじ。

会計は私が済ました。
おやじに払わせたくなかった。きっと、お金はカツカツな気がしたから。払わせたくないから、トイレに行っている間に急いで済ませた。

改札まで一緒に歩いて、乗る電車が違かったのでそこで

「また会おうな!!」

この親子の「また会おう」は次、いつ会うか分からない。いや、そんなことにはなりたくないから、この日以来、今日またメールを送ってみた。
また、会えそうなら、また会いたいと思う。

この12年の空白があることは悔しい。もっと、一緒に競馬に行ったり、映画をみたり、酒を飲んだり、同じ趣味を楽しみたかった。もっとおやじといたかった。

今は、この12年間の空白が長すぎて、まだ恐れ多い部分が、多いけれど、今からでも間に合うのかな。

恥ずかしさと、甘えたいが混じり合う。

でも、もうわたしが支える番か。

あっという間。



むぎあじ。




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むぎあじ。
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