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闇の左手

"私はこの報告書を物語のようにしたためよう。わが故郷では幼時より、真実とは想像力の所産だと教えこまれたからである。"1969年発刊にして、女性SF作家の長編作品として初のヒューゴー賞、ネビュラ賞のダブル受賞の本書はジェンダー関係やLGBTQ+が見直される今だからこそ、読み直したい。


個人的には、ジブリによりアニメ化された『ゲド戦記』の原作者としての方がより日本では広く知られているように感じる著者ですが。極寒の惑星、そして地球人とよく似た姿なれど両性具有であるゲセン人の【社会的な性差別が存在しない】ジェンダーのない、そして、二元論的価値観の薄い社会の在り方を思考実験的に描いている本書は、性の在り方について。権利拡張が進む事自体は心より素晴らしいと思いつつも、対立も残念ながら相変わらず目立つ(様に感じる)現在だからこそ、あらためて魅力的に感じる読後感でした。


また本書のストーリーライン自体は割とオーソドックスな【対立する2人が難題に立ち向かう中でお互いに理解を深めていく】いわゆるバディ物なのですが。"両者の違いからこの愛は生じているのだ。そして愛がそれ自体架け橋なのだ"極寒のサバイバルの中で、主人公の2人が特殊な互いのセクシュアリティーを越えて【アガペー的な無償の愛、友情】を育ててゆく後半の描写はやはり印象的に感じました。物語の奥深さ、神話性を感じさせる合間に挟まれる民話や伝説も効果的に読者に様々な【想像をさせる余地】を与えてくれています。

フェミニズムの先駆的作品を探す誰か、あるいはSFオールタイムベスト作品を探す誰かにオススメ。

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