自分ひとりの部屋
"わたしにできるのは、せいぜい一つのささやかな論点について、〈女性が小説を書こうと思うなら、お金と自分ひとりの部屋を持たねばならない〉という意見を述べることだけです。"1929年発刊の本書は、ケンブリッジ大学での講演をもとに書かれた書評、女性論・フェミニズム論の普遍的名著。
個人的には著者のいわゆる"意識の流れ"による小説『ダロウェイ夫人』そして『灯台へ』こそ読んでましたが。書評家としての著作は読んでいなかったことから、今回手にとりました。
そんな本書は第一次世界大戦への戦時貢献が認められて(!)ようやく男女平等の参政権も認められる中、著者がケンブリッジ大学の女子カレッジで1928年に行った『女性と小説』についての二度の講演をもとに書かれたもので。6章構成で、最初に自身の結論めいた『お金と自分の部屋』を享受すべしー。と書いた上で、匿名の語り手を登場させ、日々の様子【芝生や図書室に入ろうとし『女性だから』と遮られ】博物館で女性論を探しても『男性たちによって書かれた女性論しかない』と憤ったりした後、『自分ひとりの部屋』に帰ってきても、16世紀に【シェイクスピアと同じ文才をもった妹がいたら?】あるいな17世紀から19世紀にかけての【傑作を書いた女性作家たちにはどんな困難があったか?】と想像したり、振り返った後に。性差を超えた【同性愛や両性具有に理想を見出して】終わるのですが。
第一印象としては、やはり実験的な手法から好みや評価がわかれるのでは?とも思う"意識の流れ"が多用された著者『小説』ではない一方で、本書は『評論』でありながら、むしろ匿名女性が『生活をしながら考えたことや感じたこと』を綴っていくオーソドックスな『小説』仕立てで構成されていて。とても【親しみやすく、読みやすい】のが、驚きと共に印象に残りました。
また『書評』というより『お金と自分ひとりの部屋』もとい『年収五百ポンドと自分ひとりの部屋』そして『時折、女性は女性を好きになるものです』といった言葉から現在はフェミニズム論やレズビアン文学としての引用が多いように感じられますが、本書で披露される『高慢と偏見』のジェイン・オースティン『ジェイン・エア』『嵐が丘』のブロンテ姉妹といった女性作家たち、自ら看護師という職業を確立させたナイチンゲール(その対比として男性作家、ボヴァリー夫人』のフローベールや『アンナ・カレーニナ』のトルストイ)への言及は『書評(批評)』として、とても新鮮で楽しめました。
女性論、フェミニズム論の名著としてはもちろん、20世紀を代表するモダニズム作家による『書評(批評)』としてもオススメ。