東京美術市場史②カード記載で頼りになった広辞苑


さて過去の売り立て会で入札された美術品の全ては11科目に分類された後さらに細かく分類してカードに記載する。たとえば絵画は油絵、日本画、中国画、版画等に分類、油絵は日本油絵と外国油絵に、山水画、文人画、障壁画などは国内とその他に、版画は浮世絵とそれ以外に分類という具合である。

ボストン美術館蔵 吉備大臣入唐絵巻

書は中国の墨蹟や日本の古筆、色紙などが代表的なものだが、この他文人、茶人、禅僧などの残したものの分類はけっこう面倒である(禅宗の円相は絵か書か?など判断しかねるモノもある)。

陶磁器類は茶器を除き、世界各国から舶来された
モノや著名な作家の作品に分類する。中には私にとって聴き慣れない品もいろいろありタイの宋胡録(スンコロク)などは、この作業により初めて知ったものである。

漆器・漆芸品は大小様々あるが、目録には図象がないことも多いので著名なもの以外は名称を頼りに文献に当たって調べなくてはならない。古玩文房具(硯、墨、筆など文房四宝)や服飾、室内装飾などとなると、名称だけではどのようなものか見当のつかないことも多い。

今ならパソコンを使うまでもなくスマホで割と簡単に検索出来るが、当時のこと取りあえず手元にある岩波『広辞苑』を当たることになる。我々作業する者にとって、この辞書は誠に頼りになる存在であった。ほとんどの事柄を知るのにこれ1冊でけっこう間に合ったのである。

もちろん細かな記述は書かれていないが、分類するためにはどのような物かを確認できれば良く、かなり幅広く事物について記載されているこの辞書は、調べる度に「ああこの様なものか!さすが『広辞苑』良く載ってるな」と感心させられ、本当に頼りなる存在であった。

なお「茶器」類については出品物が膨大でしかも多岐に渡るので、これらは別にして次回にまとめて述べることにする。

今回の写真「光長 吉備大臣入唐絵巻物」(部分)は、若州酒井家入札(大正12年6月14日)において第2位の価格で落札されたが、その後国内に買い手がなく昭和7年にボストン美術館に買い取られて大きな騒ぎとなった。この件がもとで重要美術品の海外流出を禁止する法律の制定や後の文化財保護法の施行に繋がったのである。

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