期待値② 〜確率論と金融市場〜

こんにちは。Pinanceです。

前回、「期待値」について解説しましたが、やはり、難しいという意見を頂戴しました。

よって今回は、もう少しだけ期待値について解説したいと思います。


簡単に前回出てきた重要なキーワードを復習します。前回出てきた重要なキーワードは主に

・確率分布

・期待値(平均値、期待リターン)

・標準偏差(ズレ、リスク)

の3つです。

まず、なぜこれらについての理解が必要なのかを解説します。


私のプロフィールに記載がある通り、当ノートでは証券工学(金融工学)的な観点から見た証券投資市場についての分析を中心にしたいと考えています。

普通、企業を見るときには財務諸表とかに代表されるような特定の「企業の情報」に重きを置いて分析します。これを「ファンダメンタル分析」などと呼んだりします。

一方で、当ノートで解説しているのは「工学的な観点」になります。

「工学的」とは、実世界(自然など)における何か物事の「動き」を数理的に記述して考えようというものです。

例えば、ニュートンはりんごの落ちる様子を数学的に記述しました。この記述は「ニュートン方程式」と呼ばれ、現代でもよく使用される方程式となりました。

証券投資は、限られた少数の人間だけではなく、多くの人間によって成り立っています。今のトヨタの株価も、数えきれないほどの人間が数え切れないほどのお金を動かした結果であると言えます。

よって、りんごが落ちる様子が数学的に記述できたように、「証券投資の世界も数学的に記述ができるのではないか」という考え方が生まれたのです。それを、証券投資に対して工学的アプローチをしているという点で、証券工学とか金融工学とかいう名前で呼ばれています。

そして確率分布という概念は、その基礎となる概念です。

例えば株式市場でお話をします。

株式市場を見てみると、日中は秒単位で株価が動きます。もはやその動きは「ランダム」に動いているようにも見えます。

よって、この株価の動きは確率的に動いているのではないかと考えることにしました。「確率的に動く」とは、ある時点の価格は、あくまで複数の選択肢のうちから適当に選ばれた価格にすぎないという考え方です。

例えば、あなたがサイコロを投げて6の目が出ました。その「6の目」というのは、1が1/6、2が1/6、3が1/6、4が1/6、5が1/6、6が1/6で出る世界から、1つ適当に選ばれて出た結果にすぎないです。

このようにして株式市場でも、今のある銘柄Aの株価が1001円だとすれば、その1000円は、998円が〜%、999円が〜%、1000円が〜%、1001円が〜%、1002円が〜%みたいな世界から、1000円という値が適当に選ばれて出た結果にすぎないと考えようということです。

上記のように考えるのも良いのですが、証券工学の世界では、価格というよりもむしろリターンにこの確率分布の考え方を用います。

というのも、単純に価格だけでみてしまうと、1円の銘柄と10000円の銘柄とで比較がしにくいからです。これはリターンの回でも解説しました。

今の銘柄Aの株価が1001円だとします。その1001円という価格は、その1時点前からの確率的な変動が適当に選ばれて算出された値だということです。より具体的にいうと、1時点前の価格が1000円だとしたら、ここで適当に選ばれた変動(リターン)は

(1001-1000)/1000 = +0.1% 

となります。この +0.1% も、例えば

{ -0.1% が 50%,  +0.1 %が 50% }

で起こるような確率分布から適当に選ばれたような値にすぎないのではないか、と考えられているということです。

もちろん、次に起こるリターンが1%か−1%かの2パターンしかないなんてことはなく、あらゆるリターンの可能性の中から唯一つが選ばれることになります。

一般に、安定下ではリターンの確率分布は正規分布に従うと考えられてきました。安定下とは、リーマンショックなどのような相場を大きく動かすような要因がない時のことです。正規分布に従うとは、その動きは正規分布の中から適当に1点が選ばれるように出現するということです。最初ですので、今回は簡単に株価のリターンが正規分布に従うとして議論をしてみましょう。

復習すると、正規分布は平均値(μ)で左右対称な釣鐘型の確率分布です。ここで興味があるのはまず平均値(μ)ですね。

今回確率分布に従うと考えたのは、株価リターンです。よって、平均値(μ)は株価リターンを見てどうにか「推定」することになります。推定という言葉の厳密な意味は一旦後回しにして、確実な答えを知ることはできないと理解をしていてください。

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上の図みたいなものが、正規分布でした。例えば平均値(期待リターン)を0%とすると、リターンがプラスになる確率(点線より右側の部分の面積)は50%、リターンがマイナスになる確率(点線より左側の部分の面積)は50%ということになります。


実際に、株式相場に当てはめてみましょう。もし今(2020年6月19日)に期待リターンを推定すると「プラス」だと考えられる銘柄は、例えば次のように動くと考えられます。

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逆に「マイナス」だと推定されるなら、

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このようになるイメージです。

期待リターンがプラスだからといって必ずしもプラスになるわけではありませんし、逆もまた然りです。


正規分布に従うとして、平均値以外にもう一つ気になるものがあると思います。標準偏差(σ、ズレ、リスク、以下リスクと呼ぶ)です。

リスクは、確率分布の形で言えば、横への広がりを表しています。リスクも平均値と同様に「推定」するしかありません。よって、我々は完全なリスクの値を知ることはできないのです。

例えば、今(2020年6月19日)にリスクが推定されたとして、以下の2つの図を見比べてみましょう。

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上の図と下の図を比べてみると、上の図は下の図よりもリスクが小さいことを示しています。リスクが小さいとはすなわち、期待リターンに近い値が出る確率が比較的高い状態リスクが大きいとはすなわち、期待リターンに近い値が出る確率が比較的小さい状態を表しています。

よって、今の時点でリスクが小さいと推定される銘柄は、次の値動きはおおよそ小さな値動きになります。逆に、今の時点でリスクが大きいと推定される銘柄は、次の値動きはおおよそ大きな値動きになります。

ここで注意してもらいたいのは、リスクの回でも解説した通り、リスクはマイナスになることを意味していないということです。この期待するリターンからどれだけ離れるかということを意味しています。

ですので、我々が何か証券(資産)を買うときに、その資産が今後従うであろう確率分布をどうにか推定していく必要があります。確率分布も正規分布以外にもたくさんの種類がありますので、どの分布が妥当かを判断する必要がありますし、さらにその平均値や標準偏差も推定していく必要があります。

とりあえず、正規分布以外を仮定すると議論が非常に複雑になりますので、本ノートでは正規分布を仮定します。

正規分布の平均値(期待リターン)を読み誤れば、期待していた利益を正当に受け取れない(あるいは、儲けのチャンスを逃す)可能性が高まります。

標準偏差(リスク)を読み誤れば、想定を超えた損失を被る可能性が高くなります。

ここからわかるように、自身が持っている資産の期待リターンとリスクをできるだけ正確に把握することは大切なのです。


今回の解説はここまでとします。図を見ながら文章を適宜輪読していただければ、具体的な理解が捗ると思います。

次回は、この期待リターンとリスクをある程度推定する最も一般的な(簡単な)方法を解説します。先にネタバレをしておくと、私が書いているマーケットレビューで使用しているボラティリティがここで述べたリスクにあたり、平均リターンが期待リターンに該当します。詳細には次回解説します。

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〜まとめ〜

・資産価格は確率的に動いていると考えることもできる。

・資産価格が確率的に動くとは、資産価格がある確率分布に従うということである。

・資産価格は安定下では平均値μ、標準偏差σの正規分布に従うと考えられている。μとσを正規分布のパラメータと呼ぶ。

・正規分布のパラメータの確実な値を知ることはできない。(推定するしかない)

・σ(リスク)が大きいほど、μ(期待リターン)から遠い値も出やすくなる。

・資産価格について考えるとき、どの確率分布が妥当で、その平均値と標準偏差はどのくらいなのかを推定していく必要がある。