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フィンランド🇫🇮でリンゴのお酒🍷を本気(マジ)仕込み!vol.1

前回は、フィンランドではリンゴがその辺に生えていて、人は森へリンゴを取りに入るという話でした(要約)。
わたしたちは4kgほどのリンゴを収穫して、とても美味しいアップルパイを作ることができました!

まだリンゴはたくさんあるので、残りはわたしがやりたかった実験に使おうと思います。
それは、アップルシードル作りです!
シードルとは発泡性のリンゴの醸造酒(フルーツワイン)です。
これまでビール、ドブロク、ワイン(ブドウ)を作ってきたわたしはアップルシードルとミード(蜂蜜ワイン)にも挑戦したかったのでした。

細かくお酒作りの様子を記録していくので、世界のどこかで果実のお酒造りに取り組まれる方のヒントのひとつになると嬉しいです。

フィンランドの家庭醸造と酒税法

フィンランドでは夏から秋にかけてベリーやリンゴ、ビールの家庭醸造が盛んです。
日本では家庭醸造はアルコール1%以下までと酒税法で決められていますが、フィンランドでは制限はありません。
ただし蒸留(ワインやビールのような醸造酒を揮発させてブランデーやウイスキーなど高濃度のアルコールを作ること)は禁止されています。

お酒作りの準備を始めよう

さて、このシールド作り。一番原始的なやり方ではリンゴを潰して放っておけばリンゴの糖分と自然の酵母で発酵するという現象を利用できます。
しかしわたしは可能な限り安定した健全なお酒作りのために酵母だけは良いものを使いたかったので、ワイン酵母を買いに行くことにしました。

やってきたのは何の変哲もないスーパーマーケット。
特にこの時期は多くの人がビールやワインを作るので基本的なアイテムが売っています。
ここで酵母の入ったワイン醸造キットを買いました。

オーストラリアの人気ビール、クーパーズの麦汁が売っています
25リットルまでの果実酒を醸造できるキット

酵母も手に入れたし、これであとは家でリンゴを潰して〜と考えていたら、うちのダンナ(フィンランド人)が言い出しました。
「リンゴを搾るミキサーがいるよねぇ!」

それまで、わたしがシードルの話をしていても「作れたら美味しそうだねぇ」とぼんやり人ごとのようだった彼がスーパーで実際に酵母や器具を見ていて何か心に火がついたようでした。
こうなると形から入るの大好きニンゲンのダンナは止められません。

電気屋さんにミキサーを見にきました
最終的に買ったもの。大きいけど多機能で使い道が他にできてよかったです。

かなりゴツいものが家に来てしまいましたが、ワイン用の搾汁以外にも使えそうなので良かったです。
わたしは毎日果実でプロテインスムージーを作って飲んでいるのですが、今までは日本から持ってきたブンブンチョッパー(100均)で人力で果物をクラッシュしていたので、これから文明の力を借り少し生活が楽になりそうです。

フィンランドで本格的な家庭醸造アイテムが揃う「MELKKOBREW」

突き詰め出したら搾汁用のミキサーだけでは納得しない彼が醸造アイテムショップを調べてくれて、最低限のものを専門店に買いにいくことにしました。
近所のスーパーでも手に入るものも多いのですが、今は醸造シーズンで売り切れているものが多く、近所では手に入らなかったのです。

ヘルシンキから北に100km、Lahtiの街外れの倉庫街にお店があり車で向かいます。
オンラインショップもあるのですがフィンランド国内のロジスティクスは、今日頼めば明日モノが届く日本と違ってスピーディではありません。
繁忙期のため時間がかかりそうなので直接お店に行きました。

店内入口の様子。ステンレンスタンク欲しいなぁ!
お酒作りだけでなく、お酒の醸造中にpH値や糖度など検査できるキットなどが売られている。
ビールの麦汁もたくさんあって心が躍ります

購入したもの

スーパーで買ったものを含め、購入したものは以下です。
記事の中で使い方を紹介していきます!

・醸造用ボトル
・エアロック
・サイホンポンプ
・サイホンホース
・ワイン酵母
・エンザイム(果汁を清澄させるため)
・ベントナイト(ワインを清澄させるため)
・搾汁バッグ
・比重計
・ワイン醸造キット(酵母やその他の添加物が全てセットになって入っているもの。今回は使わないかも)

醸造キットや追加で買った酵母。本はワインの本場カリフォルニアのナパバレーで購入したもの
糖度の比重計。セカンドオピニオン用に別のタイプも。

わたしは果汁を得るために腕力でリンゴを潰そうとしていたし、あとは酵母と家の鍋があればいいやと思っていたのですが、気づいたら色々基本的なものを揃えることになりました。
ほぼ無課金でゲーム始めようとしたのに、初期装備一式を課金した状態です。
まずは装備なしでイチかバチかでうまくいけばいいかなと思っていたのですが、ここまであれば悪いものはできないでしょう!

とりあえず最低限のもので実験で〜、と思っていたのに本気(ときどき適当に)で取り組むことになりました。

アップルシードル作りに挑戦!

ここからはシードル作りの流れを紹介します。
わたしはブドウのワインの勉強はしてきたのですがそのほかの果実のワインのことはさっぱりです。
大まかな流れは同じだと思うのでブドウのワイン醸造法に則ってやっていきます!
専門家がいたらそれはもうシードルではなくワインではと言われる部分もあると思いますがそんなのか(以下略)。

破砕・搾汁(はさい・さくじゅう)

リンゴをミキサーに入るサイズに切って上から押し込んでいきます。
果実が破砕されてシャクシャク、と人がリンゴを食べているような音がして面白いです。
皮もタネも全て使って、ちょっと渋みのある大人のお酒を目指します。
ミキサーの二つの口からジュースと搾りかすに分かれていきます。
これはやはり腕力でやるより便利だなぁ!

果汁と搾りかすが分けられていきます
搾った果汁を発酵用ボトルに移します
絞りきれていないカスが多いので搾汁ネットで簡単に濾過します

清澄(せいちょう)

搾った果汁は数日、冷蔵庫で静置して液体の中の濁りの原因である固形物を沈澱させます。
3日置いても全く透明な液の層は出来ませんでしたが、このまま発酵させることにしました。

いずれにしてもアルコール発酵でも澱ができてワインが濁るので、最後にベントナイトを使って液体の中の微粒子を落としていこうと思います。
※エンザイムは今回は使わずに別の時に使います。

ボトルの下の方に沈殿物はありますが果汁は不透明なまま濁っています
沈殿物の上の液体をサイホンポンプで一度別の容器に移してから、醸造ボトルの沈殿物を捨てて洗浄し液体を戻します

一次発酵(いちじはっこう)

搾汁した果汁そのものの自然な糖度で発酵させる場合は、以下のややこしい内容は飛ばして「酵母のスターター作り」の項目へゴー!

糖分から予想アルコール度数を知る

今回出来た果汁は2.7リットル。
果汁の糖度を比重計で調べるとそこに出た値は比重1.044、糖度11%(Brix)です。
液体は水だけだと比重は1ですがそこに糖分や微細な成分が入ると重くなります。
1を除く0.044をほぼ糖分として計算します。この糖分が多く含まれるほど発酵後にアルコールの数値が高くなります。

Brix糖度(%)の1ポイントは約0.55%のアルコール度数に相当します。
11×0.55=6.05%
今回の果汁をそのまま発酵すると6%程度のアルコール度数になります。

アナログの比重計。1.044です。
こちらの比重だと糖度の%も即時にわかるので便利です。

補糖(ほとう)で思い通りのアルコール度数のお酒を作りたい

わたしは今ある果汁に、アルコールを作ってくれる酵母のごはんである糖分を加えてもっと高いアルコールの飲料にしたい。
特に高級なワイン作りでは、この「補糖」という作業は”自然の果実の甘さに糖分を添加するなんてチート”と邪険にされることもありますが、食用のブドウやリンゴの場合はどうしても糖度が低いので仕方ありません。

さてここからは「醸造学」という学問です。ちょっとした算数が必要になります。
ロジックはわかるのですが算数大嫌いニンゲンのわたしはここでもChatGPT先生のお力をお借りします。
ChatGPTで必要な情報は比重計の値や糖度とお酒を仕込む液量だけです。人類の叡智!

ChatGPTに聞くのはこれだけ。ちょっと誤字がありますが許してください。

数字を数式に当てはめるだけで慣れれば難しいものではないので数学好きの方は計算式をググってマニュアルで計算してください。
EXELで数値入れるだけで勝手に計算してくれるようにしておくのも良いです。

山梨県立農林高校の記事より

わたしはアルコールの高いワインに挑戦したくて、今回の発酵では12%そこそこを目指します。
今回は334gの砂糖を補糖して比重を1.084に上げました。
参考までに通常のブドウの白ワインの初期比重は1.080-1.095が目安です。

ステップ 1: 必要な糖分を計算
まず、ワインを発酵させてアルコール度数12%にするには、どれくらいの糖分が必要かを調べます。発酵で1リットルの液体中の1gの糖分が約0.51%のアルコールに変換されるとされています。そのため12%のアルコールにするために1リットルあたり約235gの糖分が必要です。
ステップ 2: リンゴ果汁の既存の糖度を考慮
1.044の比重は約11%の糖度(Brix値)に相当します。したがって、2.7リットルのリンゴ果汁には、既に次の糖分が含まれているのが分かります。
既存の糖分 = 2.7リットル × 110g(1リットルあたりの糖分) = 297gの糖分
ステップ 3: 追加で必要な糖分を計算
12%のアルコールを作るには、1リットルあたり235gの糖分が必要です。したがって、2.7リットルの液体には次の糖分が必要になります。必要な総糖分 = 2.7リットル × 235g = 634.5g
これから、既に含まれている糖分(297g)を差し引きます。追加で必要な砂糖 = 634.5g - 297g = 337.5g

結論
比重1.044のリンゴ果汁2.7リットルに、アルコール度数12%のワインを作るためには、約337.5gの砂糖を追加する必要があります。

ChatGPT
337,5gなのになぜか334gにしていました。まぁそんな変わらないのでいいでしょう

酵母のスターター作り

通常の家庭醸造では、適量の酵母を果汁の中にボチャンでもOKですが、わたしは知人の醸造家仕込みのレシピでちょっと丁寧にやります。

酵母の量は0.25g/Kg(果汁の量)がセオリーなので、素直に計算すると0.675gです。
ウチにはそんな細かい計算ができるスケールはないので、キッチンスケールが測れるだいたい1gくらいを使います。(残った酵母はテープで止めて冷蔵庫へ)

①綺麗に洗ったペットボトルのキャップに酵母と同量の砂糖、人肌くらいの温度のお湯を入れてよくかき混ぜます。

左に砂糖、右が酵母です。ここにお湯を加えます

②5分くらいでぶくぶくと泡が出てくるので酵母が活発になった証拠です。

泡が立って発酵中のパンみたいな香りがしてきました

200ml程度の果汁に、補糖予定の分量の砂糖からスプーン1杯くらいの砂糖を加えてよくかき混ぜ、レンジで10〜20秒くらい(30度程度の人肌の生ぬるいくらい。)温めて、ボトルキャップのぶくぶく酵母を全部入れ、再びよくかき混ぜます。

酵母は酸素と糖分を使ってアルコールと二酸化炭素を作ります。密閉すると酸欠になるので少し空気が入るようにして無駄にゴミや雑菌が入らない程度に蓋をします。

ビーカーの上を二酸化炭素が抜ける隙間を作り簡単に蓋をします

残りの果汁の中に砂糖を補糖してよくかき混ぜて溶かしておきます。

⑤4〜5時間経って、③の表面に泡が立ち、ヘラなどでかき混ぜると炭酸飲料のようにシュワーっと更に泡が出てくるのを確認します。

泡が立ってきました。もうちょいぶくぶくしてもいいかなと思ったけど、夜遅くて眠いのでもう混ぜます

⑥残りの果汁の中に⑤を入れてよく混ぜます。

⑦エアロック(なかったら何か蓋になる物で表面を覆う。少し空気が入るように)をして放置。

醸造用の容器は蓋の上に穴が開いていてエアロックを差し込めるようになっています
エアロック。醸造ボトルのなかの二酸化炭素が水の中を通って外に排出されます

攪拌(かくはん)

液量は小さいので、このまま発酵が終わるまで放置でも良いのですが、わたしはなるべく酵母フレンドリーでありたいのでこの工程を入れます。

ヘラなどで上澄みの、空気が近くて元気な酵母を瓶底に、瓶底の酸素が薄い酵母を表面に持ち上げて元気にさせます。
今回は液体だけなので果皮はありませんが、主に赤ワインの醸造でパンチダウン/ピジャージュと言って果汁を果皮ごと発酵させ、浮いてきた果皮を空気中の酸素と共に液の中に押して漬け戻すことや、タンクの下部からパイプでワインを上部に送って戻すルモンタージュという行為と目的は同じです。
これを数十秒、1日に数回、数日やります。

ヘラを使う前後によく洗ってから液体を空気ごと上から下に、下の液体を上に上げる気持ちでかき混ぜます

ここまでの工程が「酵母を液体にそのままポチャンして放置」と何が違うというと、酵母をゆっくり成長させて、更に成長を促すことをしています。
酵母にストレスがかかるとオフフレーバーの原因になる可能性もあるのでそれを丁寧に潰していくのと、あとは手を加えると加えるだけ可愛くなってきます。(やりたいだけ)

経過

現在のところ、まだ発酵3日目。
丸一日経ったくらいから泡が出始めています。
比重は1.084から1.081へ。
0.39(%)=(1.084−1.081)×131.25
アルコールは0.39%生成されています!

比重が1.000に近くなると消費できる糖分が枯渇するのでアルコール発酵が終わります。
アルコール発酵が終わるまでに2〜3週間程度かかる見込みなので続編はまたどこかで記事にします。
楽しみにしていてください!

ボトルの後ろのノートに毎日糖分の量とアルコール量を書いて発酵を管理していきます。



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