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【おはなし】 窓際と読書とネコ
いつもなら電気代がもったいないという理由で家を出る時間。窓から暖かい日差しが届く今日は、家で過ごしている。
窓の近く、床に座って本を読む。トレーに乗せたコーヒーとおやつ。これだけあればしあわせな気分になれる。
日差しは時間によって位置を変える。座っている僕も位置を変える。午後4時が近づくと、窓からの日差しが遠ざかる。
日曜日。
どこにも行かないぜいたくな時間。本とコーヒーとおやつ。冷たくなったコーヒーに牛乳を少し入れる。簡単カフェオレのできあがり。
ぬるくなった白湯を飲む。夕食の準備はまだ大丈夫。昨日炊いたごはんが残っている。お鍋もまだある。温めるだけ。
本は3冊あるといい。
・異世界に行ける本(小説)
・なんでもない本(エッセイ)
・勉強できる本(その日の気分)
3冊を気分に合わせて読み換える。頭の中でごちゃ混ぜになっている言葉の景色。何かを映し出している。
車が通ると家が揺れる。おとなりさんは車のドアを激しく閉めるから怖い。空気の振動が壁を超えて伝わってくる。
塞いでもどこかしら入ってくるスキマ風。父が子供の時に過ごした一軒家に僕は1人で暮らしている。
ネコと一緒に暮らしたいけど、アレルギー持ちの僕には難しい。好きなだけ爪を研いでくれてもいいのに。思うようにはいかないみたい。
おしりが痛くなったので散歩に行く。
家の周りを歩くだけでも気分は変わる。昨日見かけた白黒のネコちゃんは今日はいない。おとなりさんの車のタイヤの陰に隠れて僕を見つめていた。
僕が近寄ると逃げていく。10歩くらい。
植木鉢の陰に隠れてまた僕を見つめる。近寄るとまた逃げる。10歩くらい。
家と家の間を流れている水路。住人以外は通行できないように塞いでいるトタンの下をくぐっていく。体は向こう。顔だけこちらに出して僕を見つめるネコ。
かまってほしいけど、距離感が大切なのかな。
家の中にはネコ缶がひとつ。数年前にスーパーで買って置いてある。賞味期限は覚えてないけど、缶詰だし、まだいけるかな。
家に戻って戸棚を確認。ホコリを被っているのでティッシュで拭き取る。スリッパを履いてネコを探すけど、もうどこにも見当たらない。
家に戻って少しだけ窓を開けておく。ネコが遊びにくるかもしれない。缶詰はテーブルの上に置いたまま。
昨日からずっと、そこにある。
おしまい