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【おはなし】 それは、ガスの仕業です。

身体が冷えてきたのでコーヒーをつくる。

キッチンへ行き、ヤカンにお水を入れてコンロの上に乗せる。

チチチチチ

「あれ、火がつかないぞ」

元栓は開けてある。光熱費の支払いを滞納しているわけでもない。なにのどうして火がつかないんだろう。

もう一度試してみる。

チチチチチ

やっぱり火がつかない。

「ん? なんか、におうぞ」

火はつかないけど、ガスのにおいがキッチンを彷徨さまよっている。

もう一度試してみる。

チチチ

ボッ!

「あー、よかった」

コンロから赤色と青色の混じった炎が現れて、ヤカンのおしりをあたため始めた。

換気をするために窓を開ける。今日は寒いけど空気を入れ替えなくっちゃ。

お水がお湯に変化するまでのあいだ、ボクは読みかけの雑誌をめくった。

開いたページには、キャンプでの火の起こし方を説明してくれている。

・薪を用意して空気が入るように組み立てる
・新聞紙を薪の隙間に入れてマッチで火をつける
・新聞紙に生まれた炎が薪を燃やしはじめたらオッケー

なるほど。

むかしのひとが木と木を擦り合わせて火を起こしていたシーンを何かで見た気がする。木が燃えて、その炎にヤカンのおしりを乗せると中の水がお湯に変化する。

「あれっ、ボクのキッチンで木が燃えてたっけ?」

ヤカンをあたためている炎を確認する。コンロのどこにも木は燃えてない。どうして木が燃えてないのにコンロから炎が生まれているのだろう・・・。

逆リプレイしてみる。

コンロに炎が生まれた → ボクがスイッチを押した → ガスの元栓を開いた → 元栓にガスが到着した → 誰かがつくったガスがボクの家に運ばれてきた

ってことは、ガスが燃えてるんだ。

木が燃えてるんじゃなくって、ガスが燃えてるんだ。

理科の実験が蘇ってきた。

アルコールランプに生まれた火は、フタをすると消えてしまった。

「ガスと空気が必要なんだ」

もしもキッチンをジップロックで包んでしまったら、空気がなくなった瞬間に炎は消えてしまうのかな。たぶん、そういうことになるのだろう。

雑誌の中では薪が燃えている。

ボクの家ではガスが燃えている。

火を生み出す手段はひとつじゃないんだ。

マグカップに注いだコーヒーをテーブルに運んで飲み始めた。

雑誌の中のコーヒーの方が、美味しそうに見えるのはどうしてだろう。

炎の違いかなな。

それとも屋外だからかな。

ボクには分からないことが多すぎる。

春の大型連休に飲み比べてみたい。




おしまい