【おはなし】 水あそび
せっかくの休日なのに、わたしは朝からやる気がでない。
エアコンが休んでいる室内では、扇風機が首を回してわたしに風を届けてくれている。「うーん」と「ぶーん」の間くらいの音は、冷蔵庫の音と共鳴してわたしの鼓膜を震わせる。耳の後ろからポトリと汗がこぼれ落ちてわたしのキャミソールを濡らしていく。
「こんなにも暑いとね、なんにもする気が起きないわよ」
わたしは大きめの独りごとを空気中に解き放ってから、よいしょっと重たいおしりを持ち上げて台所へと向かった。
園芸用のジョーロの中に水を入れる。
水道の蛇口をひねると、温泉水にも似た柔らかな水がわたしの左手を潤していく。
「残念だけど、キミとは真冬に出会いたかったよ」
わたしは柔らかい水が硬い水になるまでそのままの姿勢でやり過ごす。冷たくもない水をジョーロの中に溜めていく。ジョーロはゾウさんの形をしているのでなんだかいいことをしている気分になってきた。
ゾウさんのお腹が膨らんだのでわたしは蛇口を閉めてあげる。タプタプのお腹になったゾウさんをベランダに運び終えると、わたしは自分の頭の上に水を垂らしはじめた。
ちょろちょろー
わたしの髪の毛がしんなりと濡れていく。
長い髪の毛は、水分を含んでわたしのホッペにまとわりつく。生まれて間もない短い髪の毛は、ピンと背筋を伸ばして「もっと水をくれー」とアピールしている。
ホッペを通過した水は、首を通過して、わたしのキャミソールを通り過ぎると、短パンのゴム紐のところで立ち止まった。
からっぽになったジョーロをエアコンの室外機の上に乗せてあげると、ゾウさんの目元が満足したみたいな表情に見えた。
わたしはホッペにへばりついている髪の毛を両手で掴む。
「うりゃー」
頭の頂上を通り過ぎて、後頭部を通過した髪の毛は、わたしの首に着地した。背骨の外側をすべり落ちていく水滴がわたしのおしりを目指していく。
顔についている水滴はそのまんま。メイクはしてないから気にしなくて大丈夫。
上の階のベランダが生み出した日陰の中。
わたしは風を求めてひとやすみ。
おしまい