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【おはなし】 ドリンクバー

タッチパネル式のメニューで注文を終えて、僕はドリンクを取りに行く。

今日のランチはハンバーグとエビフライのセットだから、飲み物は何がいいかな。シュワシュワする炭酸ジュースにしよう。健康的なオレンジがいい。

グラスに氷を入れてボタンを押す。注ぎ口がふたつあり、オレンジジュースと炭酸水が別々に出てきてグラスの中で混ざり合う。液体は氷の上でぶつかって「こんにちは」とあいさつしているように見えた。

席に戻りながら他のお客さんのテーブルを覗く。ランチを食べているひとが多い中でビールを飲んでいるおじさんを見つけた。

「えっ、ファミレスで飲めるん?」

僕はビックリして急いでタッチパネルを操作する。あった。時間帯によってビールが安くもなっている。

「へ〜、知らなかったよ」

僕はもう一度ドリンクバーコーナーへ行く。手に持っているオレンジソーダにアルコール成分をプラスしたい。

紅茶のティーパック、砂糖、パルメザンチーズを発見。もしかするとあるんじゃないの? ランチスープ、おしぼり、レジ前のおもちゃ販売。やっぱりなかった。

しょんぼりしながら席に戻る帰り道。ビールを飲んでいるおじさんをチラ見する。おじさん、あんた眩しいぜ!(髪の毛はふさふさだけどね)

席に戻って僕は手帳を広げる。

「ファミレスでビールとランチ」

休日の予定がひとつ増えた。



土曜日の朝。

僕は手帳を確認しながら今日の計画を練る。ファミレスでビールを飲みたいと平日の僕が書いている。

ふ〜む。

ビールを最大限に楽しむためには、必ずしもファミレスである必要はない。太陽が照りつけるビーチで飲む冷えたビールには敵わない。そもそも、休日にビールを飲むことに対しての背徳感はない。

「ファミレスに行かなくてもいいよね」と僕は予定を変更した。



水曜日のお昼。

僕はファミレスでランチを食べながらビールを飲んでいる。今日のランチはからあげとハンバーグ。どちらもビールに合うサイコーのメニュー。

なのにどうしてだろう、ビールが美味しくない。

手帳を開いて確認する。明日の予定はない。明後日も空白。来週も。



金曜日のお昼。

ランチを注文してドリンクバーを取りに行く。健康的なお茶にしよう。グレープフルーツジュースも飲みたい。それぞれのグラスに注いで両手に持つ。

席に戻りながら他のお客さんのテーブルを覗く。ランチを食べているひとが多い中で商談をしているおばさんを見つけた。

うっすらと聞こえてくる声には「保険」の文字が入っている。テーブルの上には資料と筆記用具が広げられている。コップの中にはホットコーヒー。

「まだ、いいかな・・・」

ちいさな声でつぶやいて、僕はランチを食べた。



おしまい