連載小説 | 蜘蛛の糸①
私はそのとき、下界を覗き込んでいた。
仏とて食事をすれば出るものは出る。長い間、便秘に悩まされていたが、無駄だと思いつつ、下剤代わりにヨーグルトを肛門から注入したのが良かったらしい。口から摂取するよりも、直接送り込んだほうが良かろうという、私の読みは的中した。
今日は我ながらなかなか太くて立派な、ほどよい固さのものが出た。色も申し分ない。私は蓮の葉をとり、尻を拭って厠をあとにした。
「ぎょええええ。なんたる悪臭。こんなに臭くてはたまらん。こんなところに住んでいられない」
永らく使われていなかった仏の厠に住みついていた蜘蛛は叫んだ。彼はあわてて糸を紡ぎ出し、雲のいったんに縛りつけて下へ下へとおりていった。
天界と地上とのちょうど真ん中辺りに差し掛かった頃になって、彼はようやく一呼吸した。しかし、いまだにえもいわれぬ香りが虚空を漂っていた。
「急がねば。このままでは窒息してしまう」
蜘蛛はさらに速度を上げて下降し続けた。
その頃、下界では大きな山の下敷きになっていた猿がいた。
「誰か助けてくれ。もう悪いことはしないから。誰でもいい、お願いだ」
すると彼の目に、空から何者かがおりてくるのが見えた。
「蜘蛛か?俺を助けてくれ!」
彼は雲をつかむような気持ちで、蜘蛛に懇願した。
「悪党の孫悟空ではないか!」と蜘蛛はドキリとした。殺される!
蜘蛛は逃げようとした。しかし、孫悟空は諦めなかった。
「おお!蜘蛛よ、約束する。お前が俺のことを助けてくれたら、何でもやってやる。お前のことは絶対に殺さない。だから助けてくれないか?」
蜘蛛はその場から一刻も早く立ち去りたかった。しかし、仏に酷い目にあわされた猿を哀れに思う心もあった。
「あなたを助けても、本当に私のことを踏みつけたりしないと約束できますか?」
「あぁ。お前は天界からおりて来たのだろう?何があった?話を聞いてやってもいいぞ」
孫悟空は話術に長けていた。蜘蛛は胸の内を語りたくなった。気が付けば、天界の厠での出来事を詳細に語っていた。
「許せんな、仏ともあろう者が。出るものは仕方ないにしても、他人への配慮は必要だよな。俺はお前に激しく同情する。お前は仏に追い出されたようなものではないか。どうだ、俺と手を組まないか?仏の野郎にギャフンと言わせてやろうじゃないか!」
蜘蛛は孫悟空と言葉を交わし続けた。仏とてきっと弱点はある筈だ。孫悟空を助けて、仏に復讐するのも悪くないと思うようになっていった。
…つづく
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