Essay | コブ=ダグラス型生産関数について
(1) はじめに | 運動方程式、モデル、概念装置
この記事では、経済学の基本的な用語と、モデルを構築する意味について考えてみます。
経済学には、さまざまな「モデル」(概念装置)があります。
ところで、物理学で用いられる有名な式に
F=ma (力=質量×加速度)
というものがあります。
運動方程式と呼ばれるものですが、「力」というものは本来、人の目に見えるものではありませんね。
しかし、「力=質量 × 加速度」と定義してみることで数値化することができ、測定可能なものになります。
誤解している人がたまにいますが、運動方程式というものは、実験によってその式の正しさを証明出来るものではなく、「F=ma」というように「力を定義」したものです。
そして、そう定義することによって、さまざまな物理現象が説明できるので、用いられているに過ぎません。
物理学と経済学は似ていると言われることがあります。その理由は、どちらの学問もまず仮説となる「モデル」(概念装置)を作ることから始まるからです。
しかし、物理学が「実験室」などで同一の状態を作り出し、「実験」によって再現可能かどうかを検証できるのに対して、経済学においては、基本的に実験することはできません。換言すると、経済学には理論的な正しさを担保するものがありません。
だから、一般的な科学理論とは異なり、「何を望ましいことと考えるのか」「モデルの妥当性」といった根本的なところでの合意がないと、議論が平行線を辿るということがあります。
この記事では、「経済学的な考え方とは何か?」ということを考察します。
抽象的なことを書きつらねるよりも、具体的な経済学のモデルを挙げるほうが分かりやすいと思われます。
そこで一例として、経済学の標準的な教科書によく掲載されている「コブ=ダグラス型生産関数」について説明したいと思います。
(2) コブ=ダグラス型生産関数で用いられる文字について
「コブ=ダグラス」とは、コブさんとダグラスさんという、このモデルを考案した二人の名前に由来します。
とりあえず、この関数において用いられる「文字」の説明をします。
Y : 生産量 ( yield の頭文字)
A : 技術水準 ( おそらくartの頭文字)
K : 資本 ( Kapitalの頭文字)
L : 労働 ( labor の頭文字)
α (アルファ) : 資本分配率 (0<α<1)
1-α : 労働分配率
⚠️本来なら、「技術」は、technologyの「T」を使いたいところです。
しかし、「T」は「tax」(税金)を表すことが一般的です。
⚠️「資本」は英語では、「capital」なので「C」を使いたいところです。
しかし、「C」は「consumption」(消費)を表すことが一般的なので、ドイツ語の「カピタル」(英語のcapitalに相当)の頭文字「K」が用いられているのでしょう。
コブ=ダグラス型生産関数では、
資本分配率 + 労働分配率 = 1
とされています。
簡単にいうと、生産量を決めるのは、「資本」(工場などの設備)と「労働」(労働力、人数)である、という考え方です。
生産量を増やすためには、資本を多く投入するか、あるいは労働を増やすかのいずれかである、ということです。
つまり、資本Kと労働Lという生産要素は代替可能である、と想定していることになります。
(3) コブ=ダグラス型生産関数
さきほど、生産量を決めるのは、「資本」と「労働力」だと書きました。しかし、「A」という「技術水準」を表す文字が掛け合わされています。
生産量を決定づけるものには、「資本」や「労働力」以外の要素もあるだろうということで「A」が含まれていますが、単純に「A=1」のように、「定数」として扱っても、本質的な意味は変わりません。
(4) 1人あたり生産関数
(3) のコブ=ダグラス型生産関数の両辺を「L」(労働力、あるいは労働者数)で割ると、1人あたりの生産関数を得ます。
ここで、
1人あたりの生産量を y (小文字)、
1人あたりの資本をk (小文字)とおきます。
つまり、y=Y/L, k =K/L と置き換えると次のようになります。
例えば、資本分配率 α = 0.5 だとすると、0.5乗というのは1/2 乗、つまり、平方根を意味しますから、
1人あたり生産関数は、次のような「無理関数」のグラフになります。
(5) 1次同次関数(2変数の場合)
経済学の教科書を読むと、コブ=ダグラス型生産関数の特徴は、
「1次同次関数」であること、
と書いてある場合があります。
学生の頃、意味がよくわからなかったので、理系の友人に「1次同次関数ってなに?」と尋ねたところ「知らない」と言われたことがあります。
「数学を使う」といっても、専門分野が異なると、頻繁に使う数学は異なるようです。
1次同次関数とは何か?
(2変数の場合)
次のような条件を満たす関数を
「1次同次関数」と言います。
任意の実数 λ (ラムダ)に対して、
f ( λx , λy ) = λf ( x, y )
を満たす関数。
例えば、コブ=ダグラス型生産関数の他にも、単純な「1次同次関数」には、次のようなものがあります。
f ( x, y ) = x + y
確かめてみます。
x→λx, y→λy に置き換えてみると、
f ( λx, λy ) = λx+λy = λ(x+y) = λf( x, y )
たしかに「1次同次関数」ですね😄。
コブ=ダグラス型生産関数においても、
Y ( λK, λL ) = λY( K, L )
となります。
各自、お確かめください💝。
まとめ | なぜ生産関数は「積」の形になるのか?
最後に素朴な疑問を書きます。
生産量を決定する要素として「資本」と「労働力」を変数とする、コブ=ダグラス型生産関数では、「資本」と「労働」の「積」となっています。
なぜ「和」ではなく、「積」なのでしょう?
答えは単純です。工場や土地という生産要素がいくらあったとしても、それを実際の生産に繋げる「労働力」がなければ、何も生み出さないからです。
もしも、生産関数が「資本と労働力の和」ならば、労働力が0でも、資本さえあれば、何か生産されることになってしまいますね😄。
運動方程式 F = ma も少し似ているような感じがしています。