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短編 | タイパ

 平衡感覚がない。たった二時間ほどのフライトなのに、いつもこうなる。それでも私は、まだましなほうだ。私の隣りに座っていた女性なんて、飛び立つ前は黒々とした髪の毛だったのに、降りる時には真っ白になっていたのだから。

 人によって症状は様々だ。失禁する程度ならすぐに回復するらしいのだが、平衡感覚を取り戻すには1ヶ月はかかる。白髪がもとの黒髪に完全に戻るまでには、数年かかってしまうだろう。

「私なんか、フライト中に心臓がなくなってしまったことがあって、ドナーを見つけるまでに10年以上かかりましたよ」

「オレなんか、フライトのあとには、人の悪口を言う癖がついてしまって、いまだに元にもどらねぇよ」
 
 高速で移動すると、どこかに必ず歪みがうまれる。船とか自転車で移動するときには、特に何事も起こらないのだから。

「タイパ、タイパと言ってると、思わぬ不都合が出てくる。そんなに急いでどこに行くんだかね」

「映画だって本だって、2倍の早さで見たって、涙が2倍出るわけでもない。というか、ゆっくり見れば泣けるのに、早送りで見たらまったく泣けないだろう」

「2倍の早さで理解できると、ほかにイロイロできるじゃないですか~」 

「あっ、そう。だからなに?私は別にほかにしたいことなんてないよ。ゆっくり楽しんじゃいけないのかね?」


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もしかしたら、私の妄想ではなく、あなたの妄想かもしれない。イラストも収録しています。

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記事を読んで頂き、ありがとうございます。お気持ちにお応えられるように、つとめて参ります。今後ともよろしくお願いいたします