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推理小説 | 読書する女の子

 ある夏の日のことである。たまたま一休みしようとしたカフェで、一心不乱に読書している女の子を見かけた。

 なにを読んでいるのだろう?
 なんとなく気になって、その女の子に注視していた。

 窓ぎわにすわっている。文庫本のページを少しずつめくっている。少し厚めの文庫本だ。だいだい700~800ページはありそうだ。
 私はコーヒーと水を交互に飲みながら、観察していた。

 ただ本を読んでいるだけだから、何の変哲もないのだが、1つ気になったことがあった。
 読むペースは一定なのだが「先に進んではまた戻って」を繰り返している。そして、見たところその戻るページはいつも同じように見えた。

 なにを読んでいるのだろう?

 もっと近くへ行ってみるか、本人に訊いてみるか、と迷ったが、どちらも実行にうつすことはしなかった。私は女の子がなにを読んでいるのか、想像してみた。

 とりあえず分かっていることを整理しておこう。

①カフェの窓ぎわで女の子1人が本を読んでいる。真面目そうな女の子だ。
②その読んでいる本は、700~800ページ程の厚さがある。
③一定のペースで読み進めているが、たまに戻るページがあるようだ。登場人物の名前を確認しているのだろう

 この3つから私は、ロシア文学かな?、と想像した。
 ロシア文学は、登場人物の名前がやたらと長いことがある。なかなか頭に入ってこない。だから、絶えず少し前に戻って登場人物の名前を確認する。
 「戦争と平和」か「カラマーゾフ」か。
 そこで再考してみる。この暑い夏の日に、長編小説なんて読む気持ちがわくだろうか?いろんな人がいるから一概にはいえないが。

 いや、夏だからニーチェか?なんとなくニーチェには暑苦しさを感じる。「ツァラトゥストラ」あたりかな?

 う~ん、なんとなくしっくり来ないんだよな。

 とその時である。不意に女の子が私のほうを見た。目があってしまった。女の子は本を置いて私から視線をそらそうとしない。そして、そのまま私のほうへ近づいてきた。

「あの~、さっきから私のほうをジロジロ見ていらっしゃいますよね。何か気になりなりますか?」

 その言葉にたじろぎながらも、私は尋ねた。
「えっと、あなたが何の本を読んでいるのか気になってしまって。なにをお読みでしたか?」

「あぁ、そんなことでしたか?私が読んでいるのは『吾輩は猫である』です」


(おしまい)


以前書いた作品のリライトです。


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