短編 | せつなさの波
「ユミは僕のことを『好きだ』と言ってくれた。僕もユミのことが好きだ。なのにどうして?」
ユミはうつ向いたまま、僕と視線を合わせない。
「納得なんかできない。なんで僕と付き合えないんだ?じゃあなんで僕と寝た?」
ユミはふぅっとため息をついたあと言った。
「ユウキのことは好きだよ。だから、体も捧げた。でもね、きっとユウキは私と付き合っていくうちに、私に耐えられなくなることが分かるから。だからね、一夜をともにしたことをいい思い出として残しておきたいから、このまま別れたいの」
なんでだよ、なんでだよ、という気持ちを抑えながら、僕は黙って聞いていた。ずっとユミのことを見つめながら。
「嫌いだ。顔も見たくない」というのなら、今はつらくても気持ちの整理をつけることができる。けれども、1番好きな人だから、僕と一緒にいられないというユミの理屈がわからない。
「ユウキにはきっと分からないよね。それも、お別れしたい1つの理由だったりするんだよね」
「どういうこと?」
ユミはまた深呼吸したあと、口を開いた。
「今、言った通りなんだけどな。ユウキにとって1番の私との思い出は、初デートのときか、昨日私のことを抱いた夜のことでしょ?違うかな?」
僕はなるべく冷静になろうとした。ユミの言わんとすることがなんとなく理解できたから。
「やっぱり図星だったみたいね」
「いや、そんなことないってば」
「じゃあ、これから私のことをどうしたいの?」
言い返そうとしたが、情けないことに言葉に詰まってしまって、なにも出て来なかった。
「ユウキはユウキのままでいてね。ユウキのこと、否定なんてしてないよ。でも、男の人って、そんなものだと思ってる。体を求める以上のことって、なにも持っていないのが普通だから。でもね、このままお別れすれば、きれいな思い出だけを残して生きていける。だから、これで終わりにしましょう、お互いのために」
記事を読んで頂き、ありがとうございます。お気持ちにお応えられるように、つとめて参ります。今後ともよろしくお願いいたします