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南の島の物語

(1) 

むかしむかし、ある南の島の物語。

100人くらいの人々の住む島がありました。その島は、人望ある1人の王様が治めていました。

島民はみな、王様を尊敬していました。
ところが、あの津波が島を襲ってから、王様がみるみる痩せ細っていきました。

多くの島民の家が流されて、王様が疲労困憊しているのだろうと、みなあわれに思っていました。

「王様、ひとまずゆっくりとお休みになってはいかがでしょう?」

「いや、私は起きてるときはいいのだが、寝るとゆっくりと休めないのだよ。妙な夢を見るんだ」

王様は寝ることを恐れているようでした。


(2)

その反対に、あの津波が襲ってから、日毎に肥えてゆく1人の男がいました。

「お前はなんでそんなに幸せそうなんだ?」

「いや~、あの津波のあと、毎晩、豪華な食事をいただく夢を見るんだよ。夜寝るのが楽しみで、昼にカヌーをつくる苦労を忘れるくらいなのさ」

「豪家な食事って、どのくらい豪華なのさ?」

「王様の食事くらいかな?王様の食事なんて見たこともないけどさ」


(3)

ある日、日毎に肥えてゆく男の話を耳にした王様は、宮殿にその男を呼び寄せて話を聞くことにしました。

「そなたは毎晩楽しい夢を見るようだが。。。」

「はい、この宮殿の中は、私が夢で見た光景そのままです。今日ここに来て、正夢だったのだと思いました」

「もしかして、そなたは、昼間、毎日炎天下で、椰子の実1つだけしか食わないで、カヌーを作っていやしないだろうか?」

「はい、おっしゃる通りでございます」



(おしまい)


中島敦南島譚」の『幸福』という短編をモチーフに書きました。
いわゆるretold versionです。
だいぶ異なるところもありますが😄。
互いの昼の生活を夜に、お互いの夢で見て、現実に影響を及ぼすというお話です。


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山根あきら | 妄想哲学者
記事を読んで頂き、ありがとうございます。お気持ちにお応えられるように、つとめて参ります。今後ともよろしくお願いいたします