襲撃 | スタインベック
(1) スタインベック「襲撃」について
スタインベックの短編小説「襲撃」を読みました。この短編小説「襲撃」(The Raid)は、Peguin Classics の John Steinbeck, The Long Valleyの中に収められています。また、「襲撃」の日本語訳は、大久保康雄(訳)「スタインベック短編集」として新潮文庫に収められています。
「襲撃」はPenguin版では 65ページから76ページ、新潮文庫では、107ページから126ページに掲載されています。それほど長い話ではありませんが、4つのパートに分かれています。
(2) 形容詞の限定用法に関する一考察
この記事で扱うのは、内容に関することではなくて、原文の形容詞後置という英文法に関することです。
形容詞の用法についてはこちら(↓)
「The Raid」の第2パートの最初のパラグラフを引用します。
(前掲Penguin版、68ページより)
(前掲文庫、113ページより)
They approached a low, square building, black and heavy in the darkness.
(大久保[訳])
二人は、闇のなかで黒く、どっしりとしてみえる低い四角い建物に近づいた。
比較的短い文ですが、low(低い)、square(四角い)、black(黒い)、heavy(重い)という形容詞が4つ登場しています。そして、そのいずれの形容詞も「building」(建物)を修飾しています。
多少ニュアンスは変わりますが、「限定用法」(名詞を修飾する用法)の場合は原則として名詞の前に置かれるので、
They approached a low, square, black and heavy building in the darkness.
となるはずです。
しかし、このように4つの形容詞を並べて1つの名詞を修飾すると「重たい感じ」になってしまいます。
「重たい感じ」になるのは「限定用法」として形容詞を使うことが原因なので、関係代名詞と「叙述用法」とを組み合わせれば、
They approached a building that was low, square, black and heavy in the darkness.
となります。
しかしながら、関係代名詞と叙述用法を組み合わせると「that was」の分だけ単語数が増えてしまいます。それに加えて「説明的」な部分が多いことは小説の文としてふさわしくありません。
ということで、いろいろ文法的なことや小説としてのふさわしさについて考えると、原文の英語がやはり1番しっくりくるのかな、と思います。
4つの形容詞のうち2つを前に置き、残りの2つを後ろに置くことは、理にかなっています。
英文法の教科書的には、「限定用法」として形容詞を用いる場合には、前置することになっています。しかしながら、スタインベックに限らず、ギッシングの「ヘンリ・ライクロフトの私記」の中にも、形容詞を後置している文が散見されます。
(3) 私見
ここからは「私見」ですが、2つの形容詞を「and」で結ぶ場合は後置しても違和感を持たないことが多いです。
例えば、「2つの大きな赤い帽子があります」なら、
①There are two big red hats.
よりも
②There are two hats big and red.
と書いたほうがいいかな、と思います。
関係代名詞を使って、②の文を
②' There are two hats that are big and red.
としたほうが文法的には良いかな、とは思いますが、
関係代名詞の「主格+be動詞」は省略しても誤解を招くことは少ないと感じるからです。
フレーズ(意味の塊)になっている現在分詞(ing形)や過去分詞(pp)は「後置修飾」になりますよね?
There is a sleeping baby.
なら「眠っている」を表す「sleeping」は、「baby」という名詞の前に置かれますが、
「その部屋で眠っている」だったら、
There is a baby sleeping in the room. のようになります。
形容詞の場合も分詞の後置修飾と同じように、2つ以上の形容詞を並べたいなら、「名詞 + (形容詞and形容詞)」にしてもいいのではないか、と私は思います。
「辛抱強く待てる人」を英語にするときに、
a man capable of waiting patiently
と表現できることと、大きな差異はないと思われます。
(4) 結び
さほど難しいことを書いたつもりはないのですが、この記事は、おそらくかなり分かりにくいだろうと思います。
複数個の形容詞の並べ方は、文法書を見ても、詳述されているわけではありません。
ここに書いたことは、あくまでも「私見」ですが、いろいろ文学作品を読んでいて「限定用法の形容詞であっても、こういう使い方なら許容されている」と私が確信していることを書きました。
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