短編小説 | 拳銃🔫
小さな頃に、今は亡き父から一挺の拳銃を譲り受けた。
「依緒、よくお聞き。この拳銃には2発の弾がこめられている。いざという時に使うがいい」
そう言い残して父は亡くなった。父が亡くなったことよりも、死に際に差し出された拳銃を見て驚いて、私たち母娘は顔を見合わせた。
「ねぇ、お母さん、お父さんが言ったこと、ホント?」
「さぁ、どうかしらね。でも確かにオモチャのようには見えないわね」
「これ、どうする?しまっておく?」
「そうね、本物だとしたら、そこら辺に捨てるわけにはいかないわね」
父がかたくなに病院に行きたがらなかったのは、きっとこの拳銃を隠し持っていたからなのだろう。
母と私は、父から譲り受けた拳銃を木箱に入れて、入念にテープで密閉して、押し入れの奥にしまいこんだ。
それから10数年の時が経った。母も私も拳銃をしまったことさえ忘れかけた頃、警察官が私たちのもとへやってきた。
「依緒さんはいらっしゃいますか?銃刀法違反の容疑で、家宅捜索させていただきます。令状はすでにとってあります」
突然やってきた警察官は、私たちを尻目に、一直線に拳銃のしまってある押し入れに向かっていった。
「あっ、これがおそらく拳銃の入った箱だろう」
警察官は私たち母娘に語りかけるようにいった。
「何発の実弾が入っているのですか?」
私は正直に「2発の弾が入っていると父から聞いています。けれども、中身を確かめたことはありません」
「そうですか。ではここで本当に入っているか確かめてみましょう」
警察官は自らのこめかみに銃口を向けた。
「な、なにをするんです。もしも本物だったら、どうするんですか?」
母が叫んだ。
「お母さん、その慌てようは、実弾が入っている何よりの証拠ですね。ちょうどいい」
そういうと、警察官はこめかみに当てた拳銃の引き金をひいた。
パスぅ……
気の抜けたような音が響いた。
ここには入っていないようです。警察官は続けて、引き金をひいた。
パスぅ… …
パスぅ… …
何度引き金を引いても、警察官のこめかみを撃ち貫くことはなかった。
「実弾は入っていなかったようですね」
警察官はそう言うと、持っていた拳銃を私に手渡した。
「嫌疑不十分のようです。実弾は入っていませんでしたので、これはお返しします」
「そうでしたか。実弾は入っていなかったんですね」
私は安心して、手渡された拳銃を警察官に向けて、引き金を引いた。
バ~ン
けたたましい音が辺りに鳴り響いた。銃口の先を見ると、こめかみを撃ちぬかれた警察官が血を流して倒れていた。
「依緒、やっぱり実弾が入っていたようね」
母は冷然とつぶやいた。
「ねえ、お母さん、もう一発、入っているのかしらね」
今度は、私は母に銃口を向けて引き金を引いた。
バ~ン
またしても、拳銃はけたたましい音を立てた。視線の先には、心臓から血を流している母の姿があった。
終わり
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