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一語の宇宙 | 逆成 back-formation

back-formation」とは、言語学用語で「逆成」のこと。

英語学・言語学用語辞典」(開拓社、2015年第1版)、85頁では、次のように説明されています。


back-formation (逆成)
既存の派生語などの接辞部分が削除され新たな語が形成されることをいう : babysit (< babysitter)など。また、本来接辞ではない要素が接辞と分析され、同様に削除されることもある : burgle (<burglar)など。

「英語学・言語学用語辞典」
開拓社、2015年
p85より引用

 これだけを読むと難しそうに聞こえる。簡単に言うと、たいていの場合、英語の名詞は動詞から作られるが、名詞から動詞が作られることを「逆成」(back-formation)と呼ぶ、ということです。


通常の単語の成り立ち


 たとえば、一般的に派生語は次のように作られます。

visit (訪問する)という動詞から「visitor」。
play (~する)という動詞から
「player」。

「動詞」に人を表す「-or」や「-er」という接辞がつくことで、「~する人」という名詞が作られるのが一般的です。


逆成の場合


 「逆成」は、名詞から動詞が作られることを言います。

☆burglar(盗人) →burgle(盗む)
☆editor(編集者)→edit(編集する)
☆babysitter(ベビーシッター)
→babysit(ベビーシッターする)
☆emotion(感情)→emote(感情を表す)
☆typewriter(タイプライター)
→typewrite(タイプライターで書く)


日本語にある「逆成の言葉」


 日本語にも「逆成」の言葉があります。
 たとえば「誰そ彼」(たそがれ)から「たそがれる」という動詞が作られました。
 他には「目論見」から作られた「目論む」という動詞があります。


これも逆成かなぁ?


 いつの頃からは忘れましたが、「事故る」とか「ミスる」という言葉を聞くようになりました。

 もともとは「事故」という名詞から「事故を起こす」→「事故る」となったのでしょう。
 
 「ミスる」は逆成と言えるかどうか?というのは、「ミス」はもともと「mistake」(過ち、間違い)という名詞の省略形の「mis」(ミス)に「る」がついて「ミスる」になった言葉だからです。

 「サボタージュ」から「サボる」という動詞が作られたり、日本語には逆成っぽい言葉がたくさんありますね。「パクる」とかも当てはまるかなぁ?

 ちょっと気になる言葉に出会ったら、英語に限らず日本語も、辞書で調べてみると面白いかもしれません。

 日本語の「造語力」は、日本語の特徴の1つでしょうね。


後書き的な


 英語の話から日本語の話になってしまいました。
 個人的には「サボる」にはなんの違和感もありませんが、「事故る」には違和感が残ります。
 日常会話では使いますが、書くときには「事故る」はあまり使いたくありません。

 「事故る」みたいな言葉を、「言葉の乱れ」と呼ぶ人がいるかもしれませんね。ですが、言語学では価値中立的に「言葉の変化」と言います。

 うろ覚えですが、日本語と同じように、ドイツ語も造語力に特徴があります。ドイツ語と英語は言語的に非常に近い関係にあるせいか、若者を中心に、英単語に「-en」という接尾語をつけて「造語」することがあるようです。日本人が「~る」をつけて動詞化することに似ています。

 こういう言葉の変化も、言語の本質かもしれません。

 たとえば「エスペラント」のような人工言語であったとしても、言葉である以上は変化していくことは免れないでしょうね。

 言葉というものは常に変化していきます。だから、どんなに勉強を重ねても終わりがくることはなさそうです。それを苦しみととらえるか、「楽しい!」と思えるのか?
 語学学習の分岐点でしょうね。


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