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カクテル・デート | 読み切り短編
「飽田さん、お暇だったらいっしょにカクテルでも飲みに行きませんか?」
暇子からのLINEだ。僕は積ん読本を読むので忙しい。だが、本をずっと読んでいると少し体を動かしてみたくなる。1人で散歩するのも飽きたから、暇子の誘いに乗るのもアリかな、という理由で「了解!」とだけ打ち込んで返信した。女といっしょなら、それなりに予定不調和なことが起こって、何事にも飽きやすい僕でも楽しめるのではないか、という期待もあった。
LINEを送るとすぐにまた返信がきた。
「じゃあ、そこのコンビニへ7時までに来てください。待ってます」
さすがに暇な女だ。って、もう6時半をかなり過ぎてるじゃないか!
僕はあわてて適当に服を選んで、すぐに暇子の待つコンビニへ向かった。
「あぁ、飽田さん、こっちこっち」
快活な声をあげて、暇子が手招きした。
「カクテルって、どこに行くつもり?」
「あぁ、ええと、あたしの友だちがカクテル・バーを始めたのよ。今日はそこに行くつもり。少し安くしてくれるみたいだし」
暇子の友だちだから、たいした友だちではないだろうけれど、何か楽しそうなことが起こりそうだ。
「どんなカクテルがあるの?」
歩きながら暇子に聞くと「だいたい何でも出てくるらしいよ」と笑顔で言った。
「飽田さん、あそこのお店よ」
暇子の指先には、コジャレた雰囲気の看板が見えた。
「あら、暇子、来てくれたの。その男性が飽田さんかな?」
「そうそう。いつも暇そうなのに、『飽きた、飽きた』っていうのが口癖の飽田さんよ」
好きで飽田という氏になったわけじゃないが、暇子の言葉は的を射ていた。暇子は暇子で名前のまんまの女だと思うが、そんなことはどうでもいいか。
「じゃあ、さっそく頼もうかしら。とりあえずあたしは『セクシーガール・オン・ザ・ロック』で。飽田さんは?」
はじめて来る店で何があるのか分からないが、暇子と全く同じものは何となく頼みたくないから、「じゃあ僕は『セクシーガールのストレートで』」と、暇子とは少し違うオーダーにした。
「了解しました」
女マスターはなにやらグラスに入れて、シャカシャカし始めた。
「こちらになります。暇子のはこれ、飽田さんのはこちらになります」
暇子のカクテル・グラスには、岩場にいるセミヌードのリトル・マーメードが描かれていた。オン・ザ・ロックだからな。
僕のカクテル・グラスには、マーメードが一糸纏わぬ姿でビーチを大股で歩く絵が描かれていた。なるほどね、確かにストレートなセクシーさがある。おっぱいドッカーンというのは実にストレートである。
「中身はあんまり変わらないんですけどね。グラスはご注文通りにしています」
「くだらん」と思ったけれど、なかなか面白いかもしれない。ゲスな人間になったものである。
「じゃあ、今度あたしは『ユンケルのコーラ割り』で!」
「ユンケルはイチローさんにする?それともタモリさんにする?」
「うーん、迷うなぁ。どうしよう?じゃあイチローさんで!飽田さんは何を頼むの?」
「僕も『ユンケルのコーラ割り』を、タモリさんで!」
「コーラはコカコーラにしますか?それともペプシコーラにしますか?」
暇子とは違うことを聞かれたのを不思議に思った。コカコーラとペプシコーラの違いなんて僕には分からない。
「コーラなら何でもいいです。おまかせします」
シャカシャカしたあとに、暇子の前には、イチローさんが描かれたグラスが置かれた。
ほどなくして、僕の前にもグラスが置かれた。グラスの中にはスッポンがまるまる入っていた。タモリさんのサングラスの陰に隠れていたが。
「コーラ」じゃなくて「甲羅」ということか。なるほど。スッポンの甲羅ね。
「これじゃあ、ただのスッポンのユンケルづけではないか!!」と思ったが、ここで驚いてはいけない。抗議はしない。僕は冷静な男を装いつつ、暇子とふたりで乾杯した。互いに一気にカクテルを飲み干した。
飲み終わったときに、大きな化学反応が僕の下腹部で起こった。暇子を今すぐに抱きたい!という衝動が僕の体を駆け抜けた。どうでもいい女だったはずの暇子が「この女じゃなければダメだ!」という女になった。カクテルには他になにか入っていたんだろうか?
~おわり~
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