優しさは朝の光の色がいいな
僕の住んでいる部屋には、前の住人が遺していったカーテンが最初からついていて、二つあるうちの片方の窓には入居して半年たった今でもそのカーテンを洗って取り付けていた。
先週、気持ちのよい冬の早朝に、目覚めてすぐ窓の外をながめた僕は、立ち上がってそのままカーテンをもぎ取り、ゴミ袋につめて、捨てた。
急にゼロになる時がある。毎日おはようと連絡をくれる子がいて、それが何故か少しつらくて、カーテンを捨てた。
出来合いのカーテンを買って楽をしようかと思ったけれど、既製品を取り付けるような気にもなれなくて、今日やっと生地を買いに行った。
電車に乗って行く気にもなれなくて、片道一時間半分ほど歩いた。
なるべく知らない道を通って、お米屋さんの店先でおはぎを食べたり、喋ってはならないというルールの喫茶店で本を読んだりしたので、布屋に着いたころには三時間経っていた。
綿と麻の混ざった白い布を二枚切ってもらって、染色するための材料を買う。
いつ来ても、平日のお昼時の布屋さんは女性の園という雰囲気で緊張。夢みたいな場所なのに。
入り口にトイプードルがいっぱいいる布が掛かっていて、友人全員に見せてあげたい。
帰り道、公園のベンチに座ってボーとあたりを眺めてみると、はしゃいでいる学生たちや、影を引き連れて背を丸めているサラリーマンが点在していて、それぞれの夕暮れを過ごしている。
僕には嫌いな人がいなくて、全員が幸せになってくれたらいいと本当に思っている。
脳みそをしぼってみても、人生かけて誰ひとり、嫌いな人が思いつかない。
僕はずっとこのままでいいと思いながらも、それはひどくつまらないことでもあると気付く。
こうして夕暮れの公園で、馬鹿騒ぎしている学生も、禁煙エリアなのに煙草をふかすおじさんも、僕にとっては幸せになりやーの対象である。
僕のことを優しい人だと言うけれど、僕の持ち合わせるやさしさでは、あなたに何かひどい出来事がふりかかっても、きっと、全員幸せになりやーと思ってしまう。ごめんね。優しさって何色あるんやろね。