パン屋で店員に間違えられたので、コーヒーを淹れるのを手伝うことにした
この日も特に予定という予定もなく、これから生きていく上でのヒントを探すためにフラフラと街を歩いていた。
空はどんよりとした鼠色をしていた。
もしかしたら一雨あるかもしれない。少し時間を潰そうか。
そんなことを考えながら、チェーン店のパン屋に吸われるように入っていった。
平日のパン屋はとても居心地がいい。
チェーンのカフェはお喋りした集団や、カタカタと強い音で弾かれるキーボードの音、書き進められるボールペンの音。複数の音が混ざり合って耳に入ってくる感じがどうしても苦手なのだ。
それにくらべて、平日の午後のパン屋はどうだろう。
見渡してみても談笑する老人や主婦。パンと向き合って必死に味わう人。新聞を読みながらパンをかじる男性たちなどで溢れ、ガヤガヤとした印象はあまり無い。
それに、あのパンの焼かれる香ばしいかおり。
胸いっぱいに息を吸い込みたくなるほど幸福な気持ちになる。
カゴに入れられて棚に並べられたパンたちは、自分の出番を今か今かと待っている。
オレンジ色のライトに照らされてコーティングされた砂糖やバターが艶やかに光る姿も、なんとも美しい。
そんなパンたちを眺めていると、一人のおばあちゃんに声をかけられた。
「すみません。私コーヒーが飲みたいんだけど。」
私の私服はそんなにパン屋のコスプレっぽいのだろうか???
それともこのおばあちゃん、若者が全て店員に見えているのだろうか?(言うほど若者じゃないけどね)
「ごめんなさい、私は店員じゃないんです。店員さんなら恐らく厨房の中にいると思いますよ。」
そう丁寧に返した。
「あら、ごめんなさい。」
おばあちゃんはそう言って、厨房の中の店員に先程と同様にコーヒーを飲みたいと声をかけていた。
聞き耳を立て話を聞いていると、どうやらここはセルフのコーヒーマシンで淹れるスタイルらしい。(コンビニみたいなやつ)
コーヒーマシンに直接お金を入れて自分で購入してくださいと言われていた。
そう言われたおばあちゃん。コーヒーマシンの前に向かうも買い方が分からないのかフリーズしていた。
「初めてだから使い方が分からないんですけど、、」
と小声で店員に物申していたが、店員は厨房の中から出て来ず。
あまりにも不憫だったので、おばあちゃんに声をかけた。
「どのコーヒーが飲みたいんですか?サイズは大きいのと小さいの。温かいのと冷たいのがありますよ。」
私はおばあちゃんからお金を受け取りコーヒーマシンに入れ、求めていたコーヒーを購入してあげた。
それにしてもおばあちゃん、この寒いのにLのアイスコーヒーなんてやるじゃない、、笑
ガムシロップの有無を聞き、マドラーを渡し、私もすっかり店員さんになってしまった。
人によってはお節介かもしれないけれど、なんせこういうのを放っておけない性分なのでね。
「ご丁寧にありがとう。それとこのお店、ごみ箱はどこにあるのかしら?」
おばあちゃああああん!私は店員じゃないんだわ!!!!笑
そんなことを心の中でツッコんだけれど、ちゃんと探して教えてあげました。
おばあちゃんが席に座るのを確認してから、私はパン屋を出た。
あれ?私もパン食べるつもりだったのに。何をしているんだろう。
人助けをしたら、すっかり心が満たされてしまってパンを買うことを忘れてしまったのだ。
そして、パニック障害・持病持ちの私は、あのおばあちゃんを見て思うのだった。
きっと、私みたいなお節介な人ってこの世に大勢いると思う。
人に迷惑をかけることが怖くて、人との接触を拒んだりもしてきたけれど、困ったらお節介な人に助けてもらえばいいんじゃないのかと。
そうすれば、もうすこしだけ、人との交流とか生きることを楽しめるんじゃないのかな。
外に出たらあの鼠色の空の隙間から、ほんの少しだけ青空が顔を出していた。
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