最近の記事

「きく」ことについて考える

柔らかな雰囲気を醸し出す方に出会った。 その人は小さな声で、淀みながら話す。 だから耳をすませる。 小さな声に、強い思いや感情がのっていることが分かると、私はどこか心強いと思える。 「きく」 には種類があるような① 聞き手側に意図があり、そのanswer をきいている ② きくということが目的であり、ただ、語り手の語りをきいている ①の場合、振り落とされるものが大半になる可能性が高い。振り落とされるという受動態ではなく、(無意識のうちに)振り落としているという、能動的な表

    • 悲しいパスタは匂い

      ソースの入った袋の中に、乾物のパスタを入れてレンジでチンをすればパスタが完成するというレトルト食品で初めてパスタを作った。 なんだか悲しくなった。虚しい気持ちになった。 荒みへの誘いを受けたような気持ちになった。 母からの仕送りの中に入っていたものだった。いろいろ考えて入れてくれたのだろうと思い、全て食べた。 しかし、もう二度と、食べることはない。 自分がどんな気持ちであるのかが全く分からない。それどころか、何かしら気持ちをもたなければいけないと、感情を探していた。

      • ふたたび

        あの橋を渡って、セブンイレブンを少し行ったところに、 お好み焼き屋さんがある。 マップでお好み焼き屋を調べようとした私の奥深くにあった記憶が 映像とともに蘇る。 フラッシュバックしてくる。 私はこの道を、この景色を知っている。 写真や動画にしなくても、覚えている。 川沿いを歩く。 原爆ドームを横目に見る。 昔ながらの連なる団地が壁のようにいくつそびえ立つ。 どれもが私に動揺をもたらした。 景色をみること、その場に赴くこと、 それが目的ではなくとも、目に入ってきてしまった

        • 声を失って休職した話②

          前回の記事への反響を受けて前回の記事を投稿して、何人かの知人からメッセージをもらった。 このような状態になって、自身のことを振り返るために、もっている言葉で自身の状態を表現してみて純粋に、良かったと思った。 二十代前半の頃に比べて、さまざまな経験、それに伴う思考の数や幅が広がったことによって、自分のことを自分で書くその言葉に信憑性を見出せなくなっていた。 その理由ははっきりしていて、言葉に出来てしまうことしか表現できていないのだから、それはどこまで事実(自分の本心)なのだろ

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          コンビニ弁当が食べられない

          私がコンビニ弁当を食べられない理由私は小さい頃からコンビニ弁当が食べられない。 もう少し言えば、スーパーのお惣菜コーナーに売れている、お弁当の形をしたものでさえも手に取ることが出来ない。 そのことが当たり前になりすぎて、なんとも思ったことがなかったが、ある時に、強烈に思い出された光景がこのような現象を生み出しているのではないかと思うようになった。 それは幼少期、母親が風邪をひいたか何かで体調を崩し、料理が出来なかった時、父親、私、弟、妹の四人でそれぞれスーパーで買ったお弁

          コンビニ弁当が食べられない

          声を失って休職した話

          1.声を失う 一月下旬、コロナ患者対応をした後、自らがコロナ感染してしまった。療養期間を経て、二月頭に職場に復帰した数日後、突然、声が出なくなった。それも全く。復帰後二日間くらいは掠れ声ながらも声を出してのコミュニケーションがとれていたのだが、完全に声を失ってからは筆談をメインとして、ジェスチャーや読唇術でコミュニケーションを取らざる得なくなった。その状態をみた上司から紹介された耳鼻科に受診し、診断名は機能性発声障害で、治療法はリハビリしかないとのことだった。仕事は休職する

          声を失って休職した話

          優しい人の語りを聴くこと

          言葉を発する前に数秒間、間が開く。 そして話し出す。 その内容はまるで 文章を読んでいるかのように感じる。 一直線ではない。( )がところどころ見える。 それがどうしてなのか。 まず、最初から結末を 考えていないからなのではないか。 だからこそ、時間が必要なのではないだろうか。 話をしながら同時に考えている。 視線が自然と上を向き、間がある。 私はその姿にその人の繊細な思考を垣間見る。 もう一つ、( )は伝える相手に 自身が伝えようとしている 内容、絵が可能な限り、 正確

          優しい人の語りを聴くこと

          無音の話を聴く-発声障害になった話-

          忙しなく口と手を動かしても、 伝えられることはほんのわずか。 声の出ない世界で生きること。 それは電話がかかってきても出ることは 出来ない世界になるということである。 それは自動レジのあるスーパーに行き、 自動レジがないお店では 可能な限り買い物は 控える生活になるということである。 それは伝えたいことを 満足に伝えられることは殆ど皆無に等しくなり、 うまく伝わっていないだろうことも 大方飲み込む生活になるということである。 聞こえる耳に音のない声を約2ヶ月前に擦

          無音の話を聴く-発声障害になった話-

          ソクラテスのお守り

          漆黒のような冷風とは異なり、どこか透けて見えるような春の日差しと風に包まれた。 湖の前に白い巨塔は立ちはだかる。 私はその奥へはいまだに進んだことがない。 いつもなら真っすぐ進む道を遠回りし、湖の円周を囲うように作られている歩道の一部に足を踏み入れた。 巨塔は影を作る。明確な陰陽の境界線を成し、私の目の前に現れる。それは余白を許さない、乾性の境界性のような気がした。 豊かな水量が光の反射によって、一枚の巨大な板に見える。 「ねえ」私はハッとし、思わずそのまま水中に落ちそうに

          ソクラテスのお守り

          このナツの考え事、というよりも上半期に私が感じたあれやこれや

          こんにちは。 お久しぶりですね、ぺらです。 長袖を着ても少し寒かったころから一転、 「災害級の暑さ」とも表現される暑い季節に 知らない間に移り変わっていましたね、最近。 頭、痛くないですか? 水分補給はしてますか? ご飯はバランスよく食べられていますか? お元気でね、どうか。 何を今日は書くか。 最近の考え事を言葉にします。 この上半期は何というか、 様々なことが「露呈」した期間だったなと 個人的には感じています。 言葉にどこまでなるか分からないけれど、 ぐっと腹の底に

          このナツの考え事、というよりも上半期に私が感じたあれやこれや

          おにぎり性格診断

          私は知っている。うだうだ言いながら、台所に立ってシャコシャコと硬い米粒を水の中で浮遊させ、それをその大きな手で押さえつけてはかき回し、白い入浴剤のような水を排水溝に捨てる。その一連の動作の中に、無駄はない。音が私を現実から引き離して、想像の世界に米粒と一緒に浸らせる。そうこうしているうちに、炊飯器の中にその米粒とひたひたの水分が放り込まれ、スイッチが押された。 私は知っている。親はどっちも働いて家にいなかったし、あたしたちの昼ご飯をつくる余裕なんてなかった。火を使っちゃいけ

          おにぎり性格診断

          ☑『答えのない正解を生きる』小坂井敏晶

          答えがあると思っていることへの危惧、小坂井敏晶さんご本人のご経験、私の身と心をひっくり返してくれた。揺さぶられて、まだまだ知らないことがあるのに、あたかも知り尽くしたかのように誰かに知識や考えをひけらかす自分に腹が立つ。 しかし、知らないことがあるということは、その分、まだ世界は広いということを同時に知らしめてくれていることにもなる。 問いへの問いを立て、考え、悩み、それでも自分の言語を持ち、表現できること。それは私が生きていきやすくなることに繋がると私は知っている。

          ☑『答えのない正解を生きる』小坂井敏晶

          自主学習テーマ:80年代という世代が残した文化とネオリベ主義

          『東京大学「80年代地下文化論」講義 決定版』宮沢章夫 文化の発展 ・表現における不合理さを擁護することで生まれる →不合理さへの擁護は資本主義社会における一種の愚かな行為 →文化の発展には経済が好況であることが必要? *どうして最近のテレビ番組は面白くないのか? 笑いを合理的に行おうとするからなのではないか →ごっつええ感じやとんねるずのコント番組は莫大な資材が必要であった →視聴率や収入の割に合わない →だからこそ、笑いの質が高かった? 80年代という時代 ①非身体性

          自主学習テーマ:80年代という世代が残した文化とネオリベ主義

          ☑︎地域ではたらく「風の人」という新しい選択

          私には何冊か、読むとお腹が痛くなる本がある。それはお話の中に入り込み過ぎて、怒りや悔しさが腹の底から煮えくりかえるかのような痛みと、衝撃や感動(いや、動揺に近いかもしれない)で手先が震え出す痛みの二種類がある。 何気なく図書館で手に取ったこの本は、そのどちらでもない焦りと安堵の入り混じったなんとも言えない気持ち悪さを残してくれたような。 - - - - あまりFacebookで本の話題を出すことがないのですが、たまたまお名前を知っている方の本だったが故に、何気なく手にとっ

          ☑︎地域ではたらく「風の人」という新しい選択

          ☑︎かかわり方のまなび方/西村佳哲

           「これを読むべき!」 そう言われると、心の中で何故か読む気が失せてしまう。 「それはあんたの感性で良かったもんやろ?」と反発したくなってしまう。 そんな私がTwitterで見かけて、すぐにBook Offのアプリケーションを ダウンロードし、注文していた。(これ含めて三冊の古本を同時に注文したのだけれど、この新本一冊の値段と同じくらいで三冊買えた。) 古本だったので、ページのところどころに、もともとの持ち主が 青鉛筆でアンダーラインを引いている箇所がいくつもあり、 きっと

          ☑︎かかわり方のまなび方/西村佳哲

          いってらっしゃい

           自転車の鍵が見つからない。スマホの懐中電灯機能であたりを照らすが見当たらない。ある場所を照らしたらある場所が暗闇になる。確かこのポケットに入れたはずなのに。そう思って何度かコートのポケットを探るが、それらしいものすら見つからない。かかとの痛みが次第に自覚されるようになってきて、より一層、虚しさが意識されてつらい。通りを渡れば、駅が人工的に輝き、こちらを照らしている。もういっそのこと、電車で帰ろうか。ここから歩いて帰る気力はもうない。ドクドクと動く心臓ポンプがかかとに移ったか

          いってらっしゃい