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映画『真夜中の虹』 マックイーンやイーストウッドに申し訳ない(ネタバレ感想文 )
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カウリスマキの長編第5作。「労働者三部作」の2作目と言われる一品。
原題は「Ariel(アリエル)」。
最後に登場する船の名前がこのタイトル。
なぜこの邦題かというと、ラストで流れるのが「虹の彼方に(Over the Rainbow)」。『オズの魔法使い』(1939年)ですね。
私は『パラダイスの夕暮れ』(86年)(労働者三部作の1作目でもある)で、カウリスマキは「去る者(去ろうとする者)」の話が多いと書きましたが、去りゆく者が乗る船がタイトル(原題)であること、その先を「虹の彼方」に見立てたということに、この映画の真意があるように思います。
『オズの魔法使い』とカウリスマキが好きな小津安二郎の「OZ」駄洒落かもしれませんがね。
この映画は、手に汗握るハードボイルドロマンです。
ワハハハ。マジでマジで。
実際、劇中でハンフリー・ボガートの映画が流れます。犯罪アクション映画のようです。何だろう?『ハイ・シェラ』(41年)なのかな?分からないけど。
本作は、そういうジャンルを目指したんですよ、きっと。ワハハハ。
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ネタバレになってしまうんですが、途中で脱獄シーンがあります。
これが凄いんだ。
ティム・ロビンスの用意周到さも無ければ(『ショーシャンクの空に』(94年)の話をしています)、
スティーブ・マックイーンの華麗さや過酷さも無いし(『大脱走』(63年)、『パピヨン』(73年)の話をしています)、
クリント・イーストウッドの執念も無い(『アルカトラズからの脱出』(79年)の話をしています)。
笑っちゃうほど無い。全編ゆるい。
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なのに、終わってみればハードボイルドロマン。
いや、普通想像するそれとは違うのですが、カウリスマキ的ハードボイルドロマンとしか言いようがない。そういう映画です。
(2023.08.09 目黒シネマにて再鑑賞 ★★★★★)