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映画『パラダイスの夕暮れ』 カウリスマキの「男と女」マジで(笑)(ネタバレ感想文 )
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私、フィンランドの映画監督、アキ・カウリスマキ好きなんです。
本作は2007年以来の再鑑賞。
本作はカウリスマキの長編3作目。
カウリスマキの『男と女』。ワハハハ、マジでマジで。
本家『男と女』(1966年)はレーサーと未亡人だけど、本作はゴミ収集人とスーパーのレジ係。ワハハハ。
しかもカウリスマキ常連のマッティ・ペロンパーとカティ・オウティネンの夢の共演!
カウリスマキは小津安二郎が好きなんです。
小津好きの映画監督は数多いますが、「小津の進化系」を見せてくれるのはカウリスマキしかいない。
小津の系譜ですから、常連女優カティ・オウティネンを我が家では当然「フィンランドの原節子」と呼んでいるわけです。
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一方の常連男優マッティ・ペロンパーは、残念ながら44歳で早死にしました。長生きしてたら「フィンランドの笠智衆」と呼びたかったんですけどね。
なので、マッティ・ペロンパーとカティ・オウティネンの共演は実は希少なのです(たぶん2本しかないと思う)。
原節子と市川雷蔵の夢の共演みたいなもんですよ(市川雷蔵は小津映画に出てないけど)。
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カウリスマキ作品は、「流れてきた者」か「去る者(去ろうとする者)」の話が多いように思うんです。
荻上直子がカウリスマキ好きで、ちょっと可笑しい穏やかな日常を描くのがその作風のようですが、カウリスマキの本質は、実は「流れ者」なのではないでしょうか。
この映画で衝撃だったのは(カウリスマキの映画はいつも衝撃を受けるんだけど)、その「去る姿」を写さなかったことです。
普通なら、船上の二人を写して「幸せな未来」を想像させると思うんですけどね。
カウリスマキはあまり未来に興味は無いのかもしれません。
(たしか本人も過去に興味があるといったことを言っている)
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ただ私は、この時代のフィンランドの国情が分からないので、カウリスマキの真意は分かりません。
映画は「時代も国境も超えない」ものですからね。
でも、この「労働者三部作」の1作目とされる本作から透けて見えるのは、「今とは違う何処かへ」という世情のような気がします。
(2023.08.09 目黒シネマにて再鑑賞 ★★★★☆)