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連載小説「雲師」

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全12話、約40,000字/空の世界のファンタジー小説 雲師(くもし)——それは天上界に住む空を管理し、雲を操るお仕事をしている人のこと。雲師育成学校に通うソラとシラスは年に一度…
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連載小説「雲師」 登場人物紹介

優雨が出てきましたので、一度ここで登場人物紹介を挟みたいと思います! 雲師、ゆっくりペースにも関わらず読んでいただく方がいらっしゃって本当に嬉しい…! noteを始めた頃はスキ数も1とか2でしたので、二桁に突入すると感無量になる作者です。毎日お忙しいにも関わらずアマチュアの創作小説を読んでいただけるなんて、ありがたい限りです! 人物紹介、ご興味がございましたらどうぞお気軽に眺めてみてください。 連載小説「雲師」マガジンはこちら↓ 次の公開は9/29(日)です! 人物

【超短編小説】もくもくバーの空のカクテル

ずっと入ってみたかったお店がある。 わたしはドキドキしながらお店の入口に立っていた。 すっきりとした青空の下、 そこだけ空間が切り取られたかのように 突然現れた木製のドア。 まるでおばあちゃんみたいに傷や趣きや風情を重ね 水色ペンキで塗られたお店のドア。 ゆっくりとドアノブに手をかけた。 それは湾曲していて陶器のように白くなめらかだった。 「いらっしゃい」 店の奥、丸眼鏡のお姉さんがにっこりと笑って出迎えた。 その笑顔につられ、わたしは一歩、踏み出した。 もふっと足が地

連載小説「雲師」 あとがき

連載小説「雲師」が完結いたしました! こうして【あとがき】にもご訪問くださり、ありがとうございます! 全12話、約40,000文字のお話でした。 読んでいただいた方、スキ、コメントをいただいた方たちに心から感謝申し上げます! テーマと感想 この作品は「ファンタジー小説」の2作目に書いたお話でした。 現実ではない、空想をめいっぱい詰め込める、そういう夢のあるイメージが私の中での「ファンタジー」でした。 仕事や育児で疲れ果ててしまう毎日…。 逃げたいじゃないですか(私だけ?

連載小説「雲師」 第一話 雲師

——貴方の眼前にある、今この瞬間の空を見てほしい ——どのような空だろうか? ——今は、朝? それとも、夜? ——雲はある? 雨は降っている?   数瞬、目を閉じ、想像してほしい。 ——貴方の思い描く「いちばん美しい空」を  雲師、という職業をご存知だろうか。  いや、知らないのも仕方がない。我々、天上の生物だけが携わるちょっと特殊な職業なのだから。  我々雲師の主な仕事は……、と、そうだな、ちょうど目の前に紹介パンフレットなるものが開いて置かれているのでそれを見

連載小説「雲師」 第二話 初代コンテスト優勝者

前の話  第一話  次の話  ソラがこの日の授業を全て終え、斜めがけ鞄を肩から下げて帰宅した時、ばぁばは居間のちゃぶ台でお茶を飲んでいた。ソラの両親は仕事があるので昼間はいつも不在だ。必然的に帰宅後は、ばぁばがソラを見守ることになっていた。 「ただいまぁ」 「あぁ、おかえり。ソラ」  ソラは鞄と着ていた白いローブを壁に設置してある木製のウォールハンガーに引っ掛けた。玄関周りは今風なのに、ばぁばは「ニホン」という名の国の「ワフウ」デザインが好きだとかで、土足メインの室内に

連載小説「雲師」 第三話 台風

前の話  第一話  次の話  ソラたち初等部のクラスメイトたちは、上空の一角にひとかたまりに集まっていた。みんな、スパチュラと呼ばれる長い棒に跨って空中で静止している。 「はい、皆さん、だいぶ上手に空で静止できるようになりましたね。スパチュラの扱いも上手くなってきました。素晴らしいです。  さて、皆さん、見えますでしょうか。今、先生の足元には『台風』がありますね?」  クラスメイトたちが一斉に下を向いた。  真下には、渦巻き模様の巨大な雲があった。  「台風」と呼ばれ

連載小説「雲師」 第四話 願いごと

前の話  第一話  次の話  雨が降っていた。  人間界のある下方を見ても、今日は何層にも分厚い雲があるせいで灰色一色、何も見えなかった。曇天の中、ソラは自分のスパチュラに跨り雨粒を弾かせながら帰宅していた。  白いローブのフードからポタポタと水滴が落ちる。  家に到着し、ソラはまずローブ——悪天候の際に着る防風防水仕様のつやつやしたタイプだ——をパンパンと払って雨を丁寧に落とした。動物が濡れた体をブルブルと振るようにソラも頭を横に動かし、髪についていた水滴も落とす。

連載小説「雲師」 第五話 雨の少女

前の話  第一話  次の話  少女は微かな音を感じ、そちらにゆっくりと顔を向けた。  さぁあ……  ぱららっ……  ぱら……  ぽた……、ぽた……  どうやら、雨が、たった今、降り始めたようだった。音からして粒は小さく、その丸い粒が窓に当たって弾けた音を、少女の耳がしっかりと聴いていたのだった。少女の唇が少し動いた。 「きれいなおと」  そう呟いた。が、その言葉を受け取る人はその場には誰もいない。 「なぁ、ソラ! お前正気か⁉ 本当に見に降りていくのか⁉」  苦虫

連載小説「雲師」 第六話 コンテストをどうしよう

前の話  第一話  次の話  優雨、というのが少女の名前だと判明した。  名前の持つ意味を知り、ソラは胸が高鳴るのを感じた。優しい雨! なんて素敵な名前だろうか! それに出会ったあの日も雨が降っていた。さあさあと穏やかに優しく降っていて、まるで優雨みたいだと心から思えた。 「コンテストは三週間後かー……」  ソラの隣で、シラスが雲を造形するための道具を磨きながら呟いた。 (そうだった……コンテストに応募するためのテーマ決めがまだだった……)  ソラはがっくりと両肩を落と

連載小説「雲師」 第七話 びっくりしちゃった

前の話  第一話  次の話 登場人物紹介 「ソラ、人間に会いに下界に何度も行ったんですってね」  コンテストまでついに二週間を切った。ある朝、ソラは母親から心配された。ソラの両肩にそっと手を置き、潤んだ瞳で母が娘を心配していた。 「ここ数日は行ってないよ」  本当のことだった。雲師の掟を破りかけていることで叱られるかもしれないとソラは首をすくめた。 「雲師はね、できることと、できないことがあるの。それだけは分かってちょうだい」 「……うん。分かった」 「そう、ありが

連載小説「雲師」 第八話 雲をきりひらく 前編

前の話  第一話  次の話 登場人物紹介  少し前、彼女の願いごとを叶えるための案を、ソラとシラスは病院の庭のベンチで相談していた。そこは下界なので人間に存在を明かしてはならない。ソラたち雲師の姿かたちは大人の雲師が「おまじない」を施してくれたので見えなくなっている。一方、声だけは聞こえてしまうので注意が必要だった。  あーだこーだとソラたちが案を練っていると、いつの間にか近くに優雨がいた。  それがきっかけでソラとシラスと優雨は、それから何度かおしゃべりをする関係へと変

連載小説「雲師」 第九話 雲をきりひらく 後編

前の話  第一話  次の話 登場人物紹介  優雨とシラスがいる場所からはるかはるか遠くの遠く……。  雲の上のさらに上の遠くの……。  つまり、めちゃくちゃ高い天上に、ソラはいた。  跨っているのはスパチュラ。魔女の空を飛ぶホウキみたいに雲師はスパチュラに乗って大空を駆ける。上空に行くにつれて風も強くなるので、雲師のローブにはフードが付いている。  光を纏ったような白色のソラのローブ。 「よし、行くよ……!!! シラス……、優雨……!!!」  フードをぐっと深く被

連載小説「雲師」 第十話 ひだまりのいろ

前の話  第一話  次の話 登場人物紹介 「ソーーーラーーー!!!!!」  ものすごく大きなシラスの叫び声が聞こえた。  姿は見えないのに声だけがソラのもとに飛んでくる。  その時ソラは諦めることなく両手でクラウドボー(ナイフ形)を持ち、ザックザックと足元の雲を切ったり掘ったりしているところだった。 (なにこの雲め!!! 圧縮でもされてるの⁉ ちょっとしか刃先が刺さんないんだけど!)  口をへの字にしながらソラが干菓子のように固い雲を突き、悪態をついていた。ソラソラ

連載小説「雲師」 第十一話 だれも悪くない

前の話  第一話  最終話 登場人物 「数値が下がってきていますね」  ツンとした消毒の香りにも慣れた。ここは白を基調とした総合病院の入院病棟。先ほど主治医から告げられたあまり良好とは言えない言葉を脳内で繰り返した。  優雨の母は、大きくため息をついた。  毎日毎日、見舞いが可能な時間を見計らって優雨の母は果物やお茶を携えて娘の部屋を訪れている。娘は目が見えない代わりに聴覚や味覚が大変優れているようで、好きな食べ物を見つけるのは母のひそかな楽しみになっていた。お茶もい