Take-42:『運命のボタン(2009)』は面白かったのか?
【この映画のキャッチコピー】
『あなたなら、押しますか?』
【時代・舞台設定】
時代は1976年。クリスマスが近い12月16日の早朝、バージニア州リッチモンド。
【原題】
『The Box』
ご存知スピルバーグの『激突!(1971)』や『ミステリーゾーン(トワイライト・ゾーン)』などの原作者、リチャード・マシスンによる短編小説『死を招くボタン・ゲーム』(原題: Button, Button)の映画化です。
【上映時間:115分】
𓃠皆さま、よき映画ライフをお過ごしでしょうか? N市の野良猫ペイザンヌです。
さて、本日は哲学の時間であります。
まだ正月モードの方は(←オマエダケナー)一緒に頭をシャキッとさせましょうぞ!
まずは『命の相続人(2010)』とゆー映画があります。他に画像が落ちてないのでこちらで失礼。
『命の相続人』 [DVD]
『運命のボタン』の感想じゃないのかって? まあまあ。
『オープン・ユア・アイズ(1997)』という個人的には大絶賛のスペイン映画があるのですがその監督アレハンドロ・アメナーバルさんの作品であります。(ハリウッドではトム・クルーズ主演『バニラ・スカイ(2001)』のタイトルでリメイクされてますね)
それらと比べてしまうと、この『命の相続人』はまあ、うーん……という感じがしないでもないけど、決して面白くないわけではない。ないどころかむしろ──
疼痛科の医師が「あるきっかけ」で『触れるだけでどんな重病患者の命も救うことができる』特殊能力を持つようになる。ただし、それには大きな対価があり、さらには……
──という、この“大嘘”をすんなり受け入れることができる方ならばおそらく楽しめるはずでしょう。また「あるきっかけ」というのが後半重要なキーポイントとなってきます。
一言でゆーなら、
愛する人と、見知らぬ赤ん坊が100人溺れています(まあそんな状況はあり得ないけどw)。あなたはどちらか一方だけを必ず救うことができます。あなたはどちらを助けますか?──といったようないわゆる「トロッコ問題」的な作品です。んで、フト思い出すのが、今回取り上げたこの映画『運命のボタン』。
監督はあの「かなり難解な映画」と言われている『ドニー・ダーコ(2001)』のリチャード・ケリー。こちらは一番下に少しご紹介してます。
主演はキャメロン・ディアスとジェームズ・マースデン。
キャメロン・ディアスの方は今週末1月17日より、なんと『ANNIE/アニー(2040)』以来となる11年振りの新作『バック・イン・アクション(2025)』がネットフリックスの方で配信開始されるとのことですね。共演はジェイミー・フォックス、グレン・クローズなどの顔ぶれのようです。
一方、ジェームズ・マースデンといえば『X-メン(2000〜)』シリーズでのサイクロップスや『魔法にかけられて(2007)』でエドワード王子などで有名ですね。また現在三作目も劇場公開されている『ソニック・ザ・ムービー(2020〜)』シリーズで保安官トム・ワカウスキー役の俳優さんです。
さて、話を戻しますと『運命のボタン』の“大嘘”はまず以下の通りです。
“このボタンを押せば一億円手にできるが、どこかの見知らぬ誰かが一人死ぬ”というあの選択です。映画を観てない方でもおそらくどこかで似たような選択ゲーム思想は耳にしたことはあるでしょう。
自分ならどうするだろ? なんてことをまあ必ず思いますやね。んでボクも聖人君子じゃないですからね、「押すかもしれない」という考えがどうしても頭に浮かぶわけです。
『どうせ、誰にもわかりゃしないし……』そう、この考えこそがおそらく一番の悪魔の囁き。
自分が押したことによっていったい誰が死んだのかもわからないわけですから罪悪感は少ないかもしれません。イヤ、ことによれば「そもそも自分がボタンを押したことによって本当に誰か死んだのか?」──その事実確認すらできないわけですからね。
ただ……この先なにか事故や事件が起こるたびにドキドキしながら長い時間苦しむことになるかもしれない。罪悪感の継続というものは思うより人の心を疲弊させますからね。
もうニュースも見たくないからTVなんかも捨ててしまうかもしれない。報道などまともに直視できなくなるかもしれない。逃亡中の気分が死ぬまでずっと続くかもしれない。が、真に怖いのは“また次の誰かにそのボタンが渡るかもしれない”ということなのよね。
正義感が勝って「やっぱそんなことできへん! ボタンは押さへんで」と、自分が──またはこの映画の主人公が──押さなかったとします。そちらを選択すれば自分は苦しまずにすむのかというと、そう簡単なハナシでもないんですよね。
“自分が押さない”ってことと、“自分ではない誰かが押さないかもしれない”ってこと、この二つは全くの別物であり「だったら押さなかった自分が損しただけやん」そんな気持ちにすらなる──かもしれない。これもまた悪魔の囁き。
この究極の解決方法というのは、
“他の誰かが押して、それによって自分が死ぬことになるかもしれない。例えそうなるとしても自分だけは決して押さない”と、いうこの考えを、世界中の全員が思うこと──しかないわけで。
自分だけがトカ、社員一丸となってトカ、区民団体全員を持ちましてトカ、国民全員がトカ──そんな“小さい規模”ではない。地球上の全員ってことね。これは核兵器問題にも通じますが、このボタンを核爆弾発射のボタンだと仮定して──トカそういうのは今回抜きにしております。
いま思うと『カイジ』に出てきたあのトンチキ・ヘルメットの友情確認ゲーム『救出』の理屈にも似てますやね。
自分だけ、または、自分の家族だけ、もっと広げれば、この国だけ幸せならいいや──と“誰か”が考えたその瞬間から“誰か”が犠牲になる悪循環のスタートの始まりというコト。
でも、「自分一人だけならわからないんちゃう?」と、そう考えてしまうのもやっぱ人間の“業”なわけなんですよね。不本意だし、その限度の大きさにもよりけりですが、それを「完全悪」だと捉えてしまうと社会が成り立っていかない部分も必ず出てくるわけで。もちろんかなり「理想論」よりの考えであることは間違いありません。
が、かの吉田松陰も言ったよう「夢なき者に理想なし、理想なき者に計画なし、計画なき者に実行なし、実行なき者に成功なし」と、成し遂げることにおいて夢や理想というものは最初の一歩、自分や全体思想の根幹となる大切な部分でもありますからね。
ここから少しネタバレになりますので、もしここで引き返すという方はお止めしません。また次回に!
読み続けます?
まあ、この映画はSFなので、“宇宙人”という観察者の形をとって、ボタンを押した者が半数以上なら地球を滅ぼすことにする、みたいな感じになってくるのですが、例え宇宙人が登場しなくても理論上は──半分の人がボタンを押せば半分の人はすでに死んじゃってる──必然的にそういうことになるわけですね。
近年で言うなら『アベンジャーズ(2012)』のラスボス、サノスが“指をパチンと鳴らすだけで人類の半分が消滅する”──ってアレと同じです。
そう考えるとこの映画ってか、ストーリーはわりかし深くて「自分が押すか押さないか」そういう次元からもう離れちゃうのね。
「なるだけ多くの人が押さないようにしてほしいな」と、そういう“願い”に変わるのであります。
「もし誰か、自分と同じようにそう願ってる人がいるとしたら?」と思うと、そこで初めて押せなくなるのであります。
ん〜、自分でも混乱してきたな……。
これだから理系の頭持ってないと苦労するんだよ(算数レベルです)、まったく。
(;´д`)ヒー
もいっぺん整理しますね。
誰かがボタンを押すか押さないかによって、自分が死ぬ確率が二分の一であるとします。それを大前提として、とにもかくにも「自分が押さなければ」それが原因で誰かが死ぬことはまずない。
合ってますよね?w
それを最大限に約分して──自分だけは「二人のうちどちらかが死ぬ」ことを「二人とも死なない」に変えることができる人間なのである=「全体として見た場合、確実に一人は救える」
全体としてそれが、ほんの少しの割合だとしても。同じような考えをする人が多ければ多いほど悪循環は「緩やかに沈着」していくのであります。
そういう悪い連鎖を食い止めることができるのも、または、始めることができるのも、アナタ次第なんですよ──と、この映画は言っているようにボクは思いましたが、皆さまはどうお考えでしょう?
では、まだ次回に!
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【本作からの枝分かれ映画、勝手に7選】
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『運命のボタン』の監督のリチャード・ケリーのデビュー作にして問題作。「世界の終わりまであと28日と6時間と42分12秒しかない──」主人公にそう告げる銀のウサギの怪物。画像にもありますあのイメージで、見かけは何となくサイエンス・ホラーのようですが、かなり難解であります。
二度三度繰り返し見ないとわからないリバース・ムービー。そのためかDVDになってからの方が再燃しました。この作品、ドリュー・バリモアがまさかの製作総指揮。彼女もドラッグにハマッて転落してた時期がありましたからね……なんかビビッときたのかな……?
難解とはいえ各自そこそこ解釈がまだできる方の作品だとは思います。チャレンジしてみては?
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原作が『運命のボタン』と同じリチャード・マシスン。面白い作品のあらすじは三行で書けるとはよく言いますが彼の短編小説こそまさにそれですね。TVドラマ『トワイライト・ゾーン(ミステリー・ゾーン)』で数多の名作を残したミスター短編アイデアマン。ふと追い越してしまったばかりに巨大トラックにひたすら追いかけられる羽目になる主人公の悲劇……
S・スピルバーグの名を一躍有名にした作品(本来はTV映画)。なおスピルバーグの劇場デビュー作は『続・激突!/カージャック(The Sugarland Express)』ですが『激突!』とは全く関係ないストーリー。
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