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書籍「ミシンと金魚」

永井みみさんの小説、「ミシンと金魚」。
本屋さんにおいてある小冊子「ナツイチ」に載っていて気になったので購入してみました。
所感いってみよう!


他にない独白形式

まず、文章の書き方にびっくり!
誰かの視点で書かれた小説はあっても、ここまでクセのある独白だけが続く小説、初めて出会ったかもしれません。
小説って、誰視点で書かれるかがほんまに重要ですよね。

最近では、湊かなえ著「カケラ」の書き方が新鮮でしたので、ぜひ覗いてみて下さい。
主人公が色んな人にインタビューしてまわる、という構成なんですが、主人公のセリフは一言もなく、人となりもインタビューを通して他人の口から語られる要素によって、読者はイメージしていく、というスタイル。
そんな表現方法があるのね~と感心してしまいました。

「ミシンと金魚」は、カケイさんというおばあさんのお話。

デイサービスのスタッフに、「カケイさんの人生は、しあわせでしたか?」と聞かれて、自身の人生を振り返るところから始まります。
カケイさんはもうほとんど、ぼけてもうてる。認知症ですね。
耄碌した頭で、おぼつかない言葉で、自身の来し方を回想していくんです。

ぼけてることを表現するために、ひらがなが多用されているのと、
昔の人の言い回しがめっちゃ登場するので、
初めは「読みづら!」と思いました。
でもだんだん慣れてきて、すぐカケイさんの自分語りから目が離せなくなります。
この語り口は他では見たことのない、新しい小説やなあと思いました。

分量さっくり、内容ずっしり

小説としては短くて、本編160ページ!
なのでさくっと読み終わる。でも、内容はさくっとしてない。ずっしり。

もう、カケイさんの人生が、悲劇の連続なんです。
でも、もうぼけてしまってるカケイさんの語り方は、飄々としてるし淡々としてるし、悲劇的な感じではない。
ただ、そういう事実があった、という感じで語られます。
だからこそ読めるし、そうでなければとても聞いていられないほど、悲しい人生です。

もう言い出したらきりないくらい悲劇のオンパレードなんですが、
やっぱり一番は、道子の死ですね。
自分を生んだ直後の母の死、継母からの虐待、夫の蒸発、夫の連れ子からの性的虐待・・・
どれもこれも最悪ですが、最愛の娘、道子が3歳にもならないうちに亡くなったことが、カケイさんにとって人生で一番辛い出来事のようです。

でも、道子は夫の連れ子であるみのるに犯されてできた子。
不幸から生まれた幸せ、ですね。

人生って不思議なもんで、あの辛いことがなかったら、今の幸せもなかった、ってことが大いにありますよね。

かくいう私も、あのときの判断は今思えば間違ってたけど、間違ったから、今のこの幸せがある。っていうことがたくさんあります。

ドラマとかでは、「ってことは、あの間違いは、間違いじゃなかったんだよ」みたいな言葉で綺麗にまとめられるところですが、
私はそこはやっぱり、間違いは間違いやったと思うんです。
あのとき、ああするべきじゃなかった。もっとこうするべきやった。
という事実は厳然とあって、
でもその間違いから生まれた今の人生が幸せであることも事実。
一瞬の判断で、人生は180度変わる。
言えるのは、時間は巻き戻せないっていうことだけですね。

「人間の幸福と不幸の分量は平等」説

物語終盤で、カケイさんがこんなことを思います。

わるいことがおこっても、なんかしらいいことがかならず、ある。
おなし分量、かならず、ある。

よく言いますよね。
「幸福と不幸の分量はみな同じ」てやつ。
悪いことがおこったぶん、いいことがある。
人間はどの人も、幸せと不幸が平等に与えられる。

私はこれまで、この説は反対派でした(知らん)
だって、どう見ても人生ずっとバラ色みたいな人もいるし、
いや不幸が多すぎるやろっていう人もいる。

でも、一見ありきたりにも思えるこのカケイさんのセリフが、なんかわからんけどずっしり来ました。
はたから見たら幸せそうに見えるあの人も、ほんまは重たい不幸を抱えてるのかもしれないし、
めっちゃ不幸やなっていう人も、実はけっこう楽しく暮らしてるんかも。

想像することしかできないですが、想像して、決めつけへんようにしよ、って思いました。


以上、決して楽しい小説ではないですが、
短い中に、かなり濃い内容が詰め込まれた、秀作です。
ラスト、カケイさんをお迎えに来てくれるリヤカーの描写がとってもいい。
読後感は悪くないので、ぜひ手に取ってみてください。










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