『わたしのつれづれ読書録』 by 秋光つぐみ | #41 『日本新童謡集』 北原白秋
2024年8月8日の一冊
「日本新童謡集」北原白秋(日本児童文庫・アルス)
出会う人々に、私は古書店員である、古書店の開業を目指しているという話をすると、子育て中の同年代のお母さん方からよく聞かれるのが、「子どもに読ませるのにおすすめの絵本は何かないか」ということである。
豊かなことに世界中ではさまざまな絵本が世代を超えて読み継がれ、現在も多くの絵本が新しく生み出されている。正直、今の私にはあまりに勉強不足で、なかなかうまい回答を出せず日々もどかしく申し訳ない気持ちと、まだまだこれから知り得ることが山ほどあるなあと目の前の課題を見つめてはワクワクさせられている。
特に幼少期の子どもに対して選ぶ本は、ある程度の目安として対象年齢があったり、その子自身の興味関心によっても選択肢が膨大にあると思うので、保護者の方が悩むのも無理はないのだと思う。
でも、この数日考えてみた結果「考えない」という最適解に辿り着いた。
昭和2年に出版された北原白秋による『日本新童謡集』。色鮮やかな美しい装丁に目を惹かれ、触れてみたくなる本。
思いのままにはらりとページをめくる。
ここまで読んで、ハッとした。
考える必要はない。見えるもの、聞こえるもの。感じたままに、思い描いてみる、立ち尽くしてみる。そこにあるもの。それらを一つ一つ、知っていく。まずはここから始めてみる。大人も子どもも。
その、気持ちよさ。
絵本は「絵本」。童謡は「童謡」。それぞれ別のものではあるけれども、楽しみ方に大きな違いはないだろう。
見たものを見たままに、聞こえるものを聞こえたままに。そこで出会ったもののなかで、楽しい、おもしろい、気持ちいい、かわいい、かっこいい、好き、と感じられるものがあったら、その気持ちに素直でいられたら、それが充分豊かな体験となる。
この童謡集をリズミカルに淡々と読み進めることで、難しいことを考える必要は全くなくて、「好き」に向かっていけばよいのだと思った。こうして大人にも発見がある。うれしい。
絵本を読む子どもたちが「好き」の感覚を初めて知るきっかけとして、本を選ぶことができたらいいなと願う。
最後に、この本の中から詩を一つ。
【 お知らせ 】
この夏、2年半ほど前から目標としていた、古書店としての独立を果たしました。
『古書堂 うきよい』と言います。
「うきよい」は漢字で表すと「浮き宵」そして「憂き宵」。浮ついたり、憂えたりする夜の始まりの意です。
その感情は表裏一体。いつでも人や物事は変化し、一定ではいられない。多様であるうちの、さらに内なる二面の自分を抱きしめて生きていく。そんな意思を表現したく、名付けました。
連載を書くために、この北原白秋の『日本新童謡集』を久しぶりに手に取り読んでいると、「うきよい」という名を考案中に頭の中に描いていた情景が、ほとんどそのまま詩になされていて驚きました。それがこの『月光曲』という詩です。
この本が発刊されたのが昭和2年。97年ほど前に言葉によって描かれた景色が、時を超えて私の脳裏に浮かぶとは。本を開くと、時折そんな出会いもあるから不思議です。
こうした、人々と本との出会いのきっかけをもたらすことのできる古書店になることができたら、より一層その想いが強くなる瞬間でした。
現状は店舗はなく、通販のみの古書店です。拠点は、地元の長崎市。コツコツ続けて、物理的にも専門的にも少しずつ活動範囲を広げ、各所の古本まつりなどへの出店も試みています。少しずつ、着実に、力をつけて、楽しんでいきたいと思います。
この連載も私自身の勉強も兼ねて、修行として、引き続き盛り上げてゆきます。過去に紹介した本も【うきよい通販】にて一部販売中ですので、是非ご来店くださいませ。これからジャンル、時代を問わず、どんどん商品追加していく予定です。
「私はここに居る」という居場所を探した結果「自分のお店を持つ」ことを心構えてはや数年、結局まだまだ漂流を続けながら、さまざまな人や本に出会っていくことができそうです。とっても楽しみ。
皆さま、これからもどうぞよろしくお願いいたします。
-