タリバンって悪なの?
タリバン=テロ組織。そんな印象だったし、新聞やテレビを見てもそんなイメージが背景にあるように感じる。たぶん多くの人もそう思っていそうだけど、それって正しい見方なのか。ちょっと歴史を振り返ってみると、必ずしも「タリバン=悪」とは言えないような気がしてきた。
ならず者集団が国乗っ取り?!
アメリカ軍のアフガニスタン撤退を契機に進攻を強めた反政府武装勢と言われた力タリバンが、15日に首都カブールを制圧し、アフガニスタンの民主政権を崩壊させ、政権を掌握した。アメリカ軍の撤退開始宣言があった4月から農村部を中心に徐々に勢力を広げ、8月に入ってから一気に勢力域を広げた。
こういった情勢が伝えられる中、タリバンとはどんな組織なのか振り返る報道が多く流れた。多用されたのは、2001年9月11日にアメリカで起こった同時多発テロを首謀したとされるオサマ・ビン・ラディン氏をかくまいアメリカへの引き渡しを拒否した点や、女性の人権を著しく制限したり、公開処刑による恐怖政治を進めたりする姿だった。オサマ・ビン・ラディン氏をかくまったとして英米軍から攻撃を受け、旧タリバン政権は崩壊、親アメリカの民主政権が樹立された。
そのタリバンが復活。私には今回のタリバンの動きがアメリカ軍がいなくなった隙を狙って、一気に武力でアフガニスタンを制圧した武力による「テロ集団」であるように見えた。そして私はタリバンを「イスラム国(IS)」やアルカイダ、ボコ・ハラムといった集団と同一視していた。「ならず者集団が、国を乗っ取って圧政を敷こうとしている」と思ったのだ。
どっちかというと・・・
ただ私は同時に疑問も持った。そんな「ならず者集団」が一国を短期間で掌握できるものなのか。アフガニスタンの州都を制圧する際に、主だった戦闘がないまま陥落したところがいくつもあったとの報道があった。首都カブールでも戦闘はなかった。戦闘がないということは「ガニ政権維持よりもタリバン政権を望んだ」と言えるのではないかと単純に思えた。もちろん「望んだ」は積極的に選んだという意味だけではなく「どっちかというと」という消極的な支持も含まれる。タリバンの電光石火の政権掌握に、アメリカ政府だけではなく、タリバンも驚いていたようで、それも印象的だった。
2つの要素
タリバン政権を望んだとすると、なぜか。支持を集めたポイントが大きく2点あるのではないか。
①アメリカ=侵略者
1つめは、タリバン幹部が「占領から20年後に国は解放された」と語ったように、アメリカが占領者だという認識が、国民に広がっていたのではないかという点だ。旧ソ連のアフガン侵攻以来、ほとんど絶え間なく外国軍からの攻撃を受け続けてきたアフガニスタン人にとって、いくらテロからの解放、人権擁護を掲げても、民主的な政治制度確立を標榜しても、しょせん外国勢力は外国勢力。侵略者を国から追い出すタリバンを国民が支持し、後押ししたと考えられる。
②旧タリバン政権=安定したいい時代
2つめは、私たちが持っている旧タリバン政権に対するイメージと、アフガニスタン人が持っているものでは、全く異なるのではないかという点だ。私はこちらの方がかなり要素として大きいと思っている。
なんとなくだが、私はアフガニスタンの混乱は2001年の同時多発以降のものだと思っている節があった。たが歴史をひもとけば、旧ソ連侵攻が始まった1979年以降、2021年に至るまで、実に40年以上もの間、アフガニスタンは戦争、内戦に苦しんできた。その中で比較的安定していたのが、1996~2001年の旧タリバン政権の時代だったのではないか。女性の就労や教育、単独での外出を認めなかったり、無理やり結婚させたり。他にも公開処刑による恐怖政治といった挙げたら切りのない人権無視が横行した統治方法には、確かに問題はあった。ただ旧ソ連侵攻から激しい内戦の期間、今日明日の命を心配しなければならなかったアフガニスタン国民が、タリバンの言うことに逆らわなければ命は保証されていたと考えれば、治安を安定させたタリバンは、消極的にでも支持されていたと言えるのではないだろうか。
そこに2001年、米英軍がタリバンを追い出して、治安が悪化。首都でも自爆テロが頻発し、再び今日明日の命を心配しなければならない時代に逆戻りしてしまった。一度はなくなったとされていたタリバンが復活し、勢力を拡大する中で、国民にまた治安を安定させてくれるのではないかという期待があったとすれば、戦闘が起こらずに政権が移行されたプロセスにも納得がいく。
「タリバン=ならず者」は一面的かも
となれば、アフガニスタンを20年にわたって混乱させ争乱を収められなかったアメリカに変わって、タリバンが情勢、治安を安定化させられれば、アフガニスタンにとっても国際社会にとっても良いのではないか。私も過去の歴史を調べるまで知らなかったが、旧タリバン政権は、国家として承認を受けるため国際社会に働きかけをしていた。今回はより強く国際的な地位の確立を望んでいるようだ。女性の権利も「イスラム法の範囲内」という留保を付けつつ認めるとしていて、国際社会を強く意識した対応を取ろうとしている。
確かに懸念は大きい。既にデモをする市民や外国人記者の家族が射殺されたり、女性に対しての就労や就学を制限する動きも多数出ている。旧タリバン政権時代と同様のタリバンのメンバーもいる。旧タリバン政権のようにほとぼりが冷めた頃に再び弾圧や人権抑圧を始めそうな雰囲気も感じる。ただ本気で国際社会の承認を受けたいと現政権幹部が考えているのであれば、今後、メンバー内の統制が取れて弾圧や人権抑圧が収まってくると考えられる。懸念を払拭できれば、タリバンはアフガニスタンの正当な統治組織として認められる可能性もある。
それに、まがいなりにも20年間のアメリカの統治下で、自由が認められた国に再び厳しい人権抑圧があれば、今度は国民が黙ってはいないだろう。そういう国民が多いからこそ、海外に脱出しようとする国民が空港に殺到している。先日の記者会見をしたタリバン幹部は、国民が離反しないよう必死になっているように感じた。もしその姿勢が真意なのであれば、もちろん人権は十分に養護すべきものではあることに全面的に賛同するが、タリバン=ならず者というのは一面的な見方で、タリバンは絶対悪ではない。少なくともアルカイダとか「イスラム国(IS)」とか、過激派とは一線を画す、ある程度ちゃんとした政治勢力だと考えておいた方が今後の行方を見守る上で見誤らないような気が最近している。